橋爪功が妻夫木聡を絶賛「山田監督はブッキーに懸けた」『妻よ薔薇のように 家族はつらいよIII』
山田洋次監督の国民的喜劇シリーズ第3弾は、主婦への讃歌をテーマにした『妻よ薔薇のように 家族はつらいよIII』(5月25日公開)。今回の平田家は、シリーズ最大のピンチに見舞われ、家庭崩壊寸前となる!『東京家族』(13)と「家族はつらいよ」シリーズ3作で親子役を演じてきた橋爪功と妻夫木聡にインタビューし、山田組の撮影秘話について聞いた。
橋爪演じる平田周造の家族を演じるのは、妻役・吉行和子、長男役・西村まさ彦、長男の妻役・夏川結衣、長女役・中嶋朋子、長女の夫役・林家正蔵、次男役・妻夫木聡、次男の妻役・蒼井優という安定感たっぷりの実力派俳優陣だ。今回は長男の妻・史枝の家出により、三世代が暮らす平田家は、てんやわんやのパニック状態となる。
妻夫木は「パート1は喜劇、パート2がとことん喜劇で、パート3ではしっかり家族が描かれたという感じがしました。僕自身も一観客として、ほろりとくる感じがありましたし、『東京家族』からやってきた時間の積み重ねが見えました」と言うと、橋爪も「山田監督は、家族8人のいままでにはなかったところをちゃんと押さえてくださった」とうなずく。これまで以上に、家族の姿、関係性が深く描かれているようだ。
西村演じる長男・幸之助に愛想を尽かし、平田家を出ていった史枝。妻夫木演じる次男・庄太が兄に激昂するシーンは、本作でのハイライトの1つだ。妻夫木は「前日の夜10時くらいに“号外”が来て、台詞がすごく増えたんです。その時はびっくりしましたが、現場に入ってからは、あまり考えずにやっていました」。号外とは、撮影期間に入った段階で、山田監督によって改訂された脚本のページのこと。
橋爪は、平田家のファミリーにおける庄太を「ある種のまとめ役」と捉えている。「今回、庄太の役割は、相当大きかったと思う。1と2から3につながりますが、それはブッキーだからこそできているラインで、山田監督もそこをわかってらっしゃった。庄太というキャラクターができあがっているから、幸之助と言い争うくだりがあっても嘘っぽくならない。監督はブッキーに懸けたと思うし、実際とてもいいシーンになって良かった。まあ、僕は1人だけ蚊帳の外にいる感じだったけど」。
妻夫木は「ちょっと(笑)。自虐的じゃないですか。また、話にオチをつけようとされる」と笑いながらツッコむと、橋爪は妻夫木について「顔がかわいいし、映るだけで画になるスターです」と褒め殺し状態に。
「でも、ブッキーは芝居をやると全然そうじゃなくなるというか。僕は彼がそういうところを持ち出してこないところをすごく信頼しています。まあ、家族を演じているみなさんは、それぞれに存在感があるから。僕はまあまあだけど、みなさん、すごい人たちばかり」。
妻夫木は「いやいや」と恐縮しながら、橋爪について「安心感が違います。橋爪さんがいてくださるから現場が回るんです」と真摯な表情で言う。
橋爪が「俺、現場で大事にされていないんだよ。まあ、チームには誰か1人バカがいないといけないので、別にいいんだけど。なんか俺だけやりすぎてるなあと思う時があります」と少しいじけたふりをすると、妻夫木は大笑い。
「いやいや、橋爪さんは本当にクレバーな方です。いろんなアイデアを持ってきてくださるし、こうやって場を温めてくださる。でないと、パート3までできないですから。山田監督も橋爪さんの人間性を見て『これはイケる』と思ったのではないかと」という妻夫木。
橋爪は、山田組について「演技で納得できないと思った日がない」と感心する。「映像作品の場合、その場で確認できないことが多いから、撮り終わったあと、ちゃんとやれなかったんじゃないかとか、失敗しているんじゃないかとか、嫌な気分で家に帰ることがあるんです。でも、山田組ではそういうことが一切ない。消化できた感じがする。人間観察が行き届いているから、やっていておもしろいんです。8人でだんだんアンサンブルができてきたので、どこまでもいけそうな気がする」。
妻夫木が「そうですね。『家族はつらいよ』以外の設定でもできる気がします」とうなずくと、橋爪もノリノリで「違う設定でもやりたいよね」とうれしそうに同意。妻夫木は「時代劇とか。『男はつらいでござる』みたいな」とのっかり、2人は大爆笑する。
彼らの掛け合いには、舞台挨拶の時と同様の心地よいテンポ感があった。それは2人の言うとおり、合計4作を経て培われた信頼関係によるものだろう。『妻よ薔薇のように 家族はつらいよIII』でも、家族が織りなす絶妙なアンサンブルをめいっぱい堪能してほしい。
取材・文/山崎 伸子