舘ひろし「黒木瞳になりたい」と黒木をうらやむ。「僕はコンプレックスの塊」
舘ひろしと黒木瞳が、ドラマ「無影燈」以来22年ぶりに4度目の共演を果たした映画『終わった人』(6月9日公開)。「リング」シリーズの中田秀夫監督の下、舘は定年後“終わった人”と烙印を押されたトホホな元サラリーマンを、黒木はそんな夫に手を焼く妻を演じた。ずっとスター街道を闊歩してきた舘と黒木にインタビューし、自身のキャリアを振り返ってもらいつつ、今後の抱負についても語ってもらった。
原作は、NHK大河ドラマ「毛利元就」やNHK連続テレビ小説「ひらり」などの脚本家・内館牧子による同名小説。定年後、自分の居場所をなくしたサラリーマンのぼやきと第2の人生への向き合い方が、ユーモアを交えて綴られる。
クールでダンディなモテ男というパブリックイメージを脱ぎ捨て、エリートくずれの冴えないサラリーマン・田代壮介役をコミカルに演じた舘。「タイトルはすごくネガティブですが、脚本がおもしろい上に、中田監督がいろいろと盛った演出をされていてすごく楽しいんです」。
黒木が「できあがった映画を観て大笑いしました。こんな無防備な舘さんは観たことがなかったです。現場でも舘さんは中田監督と2人で、クスクス笑いながら楽しんで撮影されていました」と言うと、舘も「2人でイタズラを計画しているような感じでしたよね」と笑う。
黒木演じる千草は現役の美容師で、壮介の手持ち無沙汰ぶりに呆れる現実的な妻だ。壮介が飲んで帰ってきたあと、千草に夜食のうどんをリクエストするシーンは、リアルな熟年夫婦のあるあるな風景でなんとも可笑しい。「舘さんが楽しんで演じてらっしゃるのを微笑ましく見ているんですが、いざ千草の気もちになると腹が立ってくるんです」。
今回、舘はアドリブを連発したようで「中田監督がいろんなことをやらせてくれました。でも、黒木さんがそれをちゃんと受け止めてくれたからこそ、お芝居が崩れていかなかったんだと思います。本当に夫婦に近い友人関係でした」と感謝すると、黒木も「舘さんとは20代のころからお仕事をさせていただいているので、夫婦役も演じやすかったです」と舘との信頼関係を口にした。
本作で新境地を開いた舘と、近年監督業にも挑戦するなど、攻めの姿勢を見せている黒木。2人は今後のキャリアをどう見据えているのか?舘は「僕はまるっきり刹那主義なので、その日その日を一生懸命生きていくしかないし、自分の将来に対するビジョンはあまりないんです」と、いい感じに肩の力が抜けている様子。
「僕のこれまでの人生のなかで計画を立てて上手くいったことがない。でも、この歳になって、いろんなことをやってみたいと思うようになりました。ここ4、5年は、カッコつけずに芝居ができるようになってきたのかなという気がします。昔から気持ちはずっと開放してきたつもりだけど、『ちょっといい自分を作りたい』という思いがどこかにあったのではないかと。でも最近は『どう映ってももいいや』と思い始めたんです」。
黒木が「そうはおっしゃるけど、カッコいいんです」とツッコむと、舘は「黒木さんはいままで挫折してないんですよ。僕はすごく挫折しているというか、コンプレックスの塊なんです。でも、黒木さんはすべてを手に入れた感じがします」と黒木を羨む。
黒木が「いやいや、私もそれなりにいろいろありましたよ。舘さんのお嫁さんになれなかったとか」とお茶目に言うと、舘は「よく言うよ(笑)。僕が女だったら黒木瞳になりたい。言ってくれればすぐ結婚したのに」とぼやく。
初共演はドラマ「刑事貴族」で、互いに想い合う同僚役を演じた。舘は当時を振り返り「黒木さんは遠い存在でした」とぼそっとつぶやくと、黒木は「そうおっしゃるけど、ただ単に興味がなかっただけでしょ(笑)。私もまだ女性として成熟していなかったので。でも、夫婦役は今回が初めてでした。愛人役や犯人役、同僚役はあるんですが、手を握ったこともなかったです。拳銃を握っていましたから」と笑う。
舘が「一緒に温泉に入るシーンもあったし、いろいろな役を演じたよね。それに、ベッドシーンもやったよ」とツッコむと、黒木は「ありましたっけ?」とキョトンとする。舘は「僕はどうせ忘れられるくらいの存在なんですよ」と苦笑い。黒木は「『無影燈』ですか?あれは愛し合っていましたね(笑)。いずれにしても、舘さんには半端ない安心感があります」とうなずく。
舘も黒木について「一緒に仕事をしてく上ではすごく楽な相手ですね。しっかりしているし、きれいだし」と褒めちぎる。
黒木は「どの口がそんなこと言うのかしら」と言いつつ「でも、カッコいい人からそう言われると、やっぱり自惚れてしまいますね。でも、女性は時々自惚れなきゃいけないんです」と照れ笑いする。舘は「自惚れが足りないね」と、最後にキラースマイルを決めた。
取材・文/山崎 伸子