16歳の新進女優・南沙良、映画初主演作で「コンプレックスへの向き合い方が変わった」
注目の若手女優・南沙良が、同じく新進女優・蒔田彩珠と共にW初主演を飾った『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』(7月14日公開)。南が演じたのは、吃音というコンプレックスを抱えた大島志乃。まぶしいくらいの透明感と、痛々しいほどの不器用さが同居したヒロイン像が、なんともせつなく愛おしい。
原作に惚れ込み、オーディションで主役の座を勝ち取った南。「絶対にやりたいと思って臨んだので、決まった時はすごくうれしかったです。でも、そのぶん原作の世界観を壊してしまうんじゃないかと思い、怖かったです。吃音をどのように表現できるだろうかと、最初は悩みました」。
学校では自己紹介はもちろん、クラスメイトとしゃべることもままならない志乃。南自身、志乃に共感する部分がたくさんあったそうだ。
「私もたくさんの人の前でお話しをしたり、自分を表現したりすることがあまり得意ではないです。実際、人前ではすごく緊張しますし、言葉が出てこなかったりすることがあります。志乃と私は似ている部分が多かったので、胸が痛かったというか、苦しい気持ちになりました」。
南は撮影前に吃音を持つ方に取材をし、湯浅弘章監督とも入念に話し合った。「監督からは『その時志乃として感じたことや、思ったことをそのまま言葉や仕草で表現してほしい』と言われました。私はいろんなことを一度に考えすぎると混乱してしまうので、監督に言われたとおり、その都度感じたことをその場で表現していきました」。
志乃は、ある日ギターを弾くことが大好きな岡崎加代(蒔田彩珠)と出会い、バンドを組もうと誘われる。加代は音痴で歌が歌えないが、志乃は歌う時だけは吃音から開放されるということで、お互いにない部分を補える2人は、かけがえのない友情を築いていく。2人が路上で歌うシーンが実にすてきだが、かなり練習を重ねたそうだ。
「カラオケはたまに行きますが、大勢の前で歌ったのは初めてだったので、すごく練習しました。待ち時間も蒔田さんと2人でよく曲を合わせていました。実際、ギターと合わせて歌うとすごく気持ち良かったです」。
本作のハイライトは、クライマックスで志乃が抱えきれない葛藤を一気に吐露するシーンだろう。「湯浅監督からも『すべてが一番最後のシーンにつながっているから、そこに行き着くまでに志乃がどう変化するのかを大切にしたい』と言われました。実際に、撮影順もそうだったので、ありがたかったです」。このシーンで志乃は、これまで溜め込んできたエネルギーを放出するかのように、心の叫びを炸裂させる。
志乃を演じたことで、コンプレックスへの向き合い方が変わったという南。「私はコンプレックスがたくさんあるんですが、これまでは自分が嫌なところをいかに隠すか、どうやって普通に見せるかということをずっと考えてきました。でも、この原作を読んで、志乃を演じてからは、そういうことではないんだなと気づきました。コンプレックスというか、真っ白じゃなく少し濁っているものでも、それを自分の個性として受け取れるようになれました」。
南の女優としてのキャリアは『幼な子われらに生まれ』(17)でスタートしたばかりだが、本作は2本目にして、初の映画主演作となった。憧れの女優としては、同じ事務所の先輩である新垣結衣や、二階堂ふみ、満島ひかりなどの名前を挙げる南は「型にはまらない女優さんになりたいです」とのこと。
「お芝居がすごくおもしろいので、いまのところ壁などはまだなくて楽しいばかりです」と屈託ない笑顔を見せる南。『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』は、女優としての伸びしろを大いに感じさせる1作となった。
取材・文/山崎 伸子