イェーガーを作った日本人クリエイター・片桐裕司が長編監督デビュー!
『パシフィック・リム』(13)をはじめハリウッドの超大作映画で特殊造形を担当してきた日本人クリエイター・片桐裕司が、クラウドファンディングで資金を集め、初めて長編映画のメガホンをとったサバイバル・パニック・ホラー『ゲヘナ~死の生ける場所~』が7月30日(月)から公開。このたび片桐監督にインタビューを行い、これまでのキャリアとこれからのキャリア、そして本作のキーパーソンである俳優ダグ・ジョーンズについて話を聞いた。
高校卒業後に渡米し『ゴーストハンターズ』(86)や『ポルターガイスト2』(86)、『帝都大戦』(89)などで知られるスクリーミング・マッド・ジョージに弟子入り。その後スティーヴン・スピルバーグ監督をはじめ、サム・ライミ監督やギレルモ・デル・トロ監督など、名だたる監督たちのもとで特殊造形アーティストとしてキャリアを積んできた片桐監督。
そんな彼が「日本とアメリカ両方のバックグラウンドを持つ自分が、どういうストーリーを作ることができるかと考えた時に、日米の激戦地だったサイパンがすぐに思い浮かんだんです」と語る本作は、サイパン島を舞台にした、息が詰まるような衝撃作。土地開発会社の社員と現地コーディネーターらがリゾートホテル建設のため視察に入ったジャングルで、旧日本軍の秘密基地を発見。その中で不気味な老人に襲われた彼らは、そのまま不気味な地下空間に閉じ込められてしまうのだ。
片桐監督は、本作を製作するうえで欠かすことのできなかった俳優、ダグ・ジョーンズについて「出演を依頼したら、即OK をもらいました」と笑顔で振り返る。劇中で不気味な老人を演じたダグといえば、第90回アカデミー賞で作品賞を含む4部門を受賞した『シェイプ・オブ・ウォーター』(17)でも、物語の鍵を握る“不思議な生きもの”を演じるなど、クリーチャー・パフォーマーとして目覚ましい活躍を続ける人物だ。
「彼は特殊造形の業界では知らない人がいない存在。背が高くてものすごく細く、そしてなによりも一切文句を言わない人なんです」と、ダグの魅力を語る片桐監督。さらに、これまで何度も共に仕事をしてきたギレルモ・デル・トロ監督が、映画界の頂点に上りつめたことにも顔を綻ばせる。「デル・トロ監督はアーティストに対するリスペクトがあるから、好きにやらせてくれる。すごく仕事がしやすい監督なんです」。
「例えば第90回アカデミー賞でメイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞した『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』の辻一弘さんがやるようなタイプの特殊メイクは、『アマデウス』のころから評価されていた。けれど『シェイプ・オブ・ウォーター』のようなモンスター映画が高く評価されるのはとても珍しいこと。すごくうれしいです」と、仲間たちの栄冠を自分のことのように喜んだ。
日本を離れ多くの作品で特殊造形を手掛けてきた片桐監督に、これまでで一番自信を持って作りだしたクリーチャーはなにかと訊ねてみると「『パイレーツ・オブ・カリビアン 生命の泉』の人魚です」と即答。しかし片桐監督は「でも、当初の予定と設定が変わってしまって、ほとんど劇中で観ることができないんです。自分がやりたいことを100%出せていたので使われなかったのはがっかりしましたね…」と悔しそうに振り返り、裏で作品を支える仕事の難しさを感じさせる。
しかし、20歳のころから目標にしてきた映画監督になった片桐監督は、本作を契機に、今後は監督業を中心にステップアップしていきたいと意気込む。「ハリウッドは自分が憧れてきた場所ですから、今後もアメリカで映画を撮っていきたい」と、目を輝かせた。「今度はバリバリのエンタテインメント映画を手掛けたり、特殊メイクを使わない映画を作ったりしてみたいですね。そしていずれは、ハリウッドの大作映画の監督を任されるようになりたいです。マーベルの映画とかいいですよね」と具体的な目標も掲げる。日本から夢を追って飛び出していった片桐監督が、ハリウッドの一流監督と肩を並べる日が、近い将来訪れるかもしれない。
取材・文/久保田 和馬