米林宏昌監督が明かす、『ちいさな英雄』で試みた2つの新たな挑戦とは?

インタビュー

米林宏昌監督が明かす、『ちいさな英雄』で試みた2つの新たな挑戦とは?

昨年夏に観客動員266万人を記録した『メアリと魔女の花』のスタジオポノックによる新プロジェクト「ポノック短編劇場」の第1弾作品『ちいさな英雄―カニとタマゴと透明人間―』が8月24日(金)から公開。その1編『カニーニとカニーノ』を手掛けた米林宏昌監督に、本作を制作する上で取り組んだ“新たな挑戦”について聞いた。

米林宏昌監督が短編『カニーニとカニーノ』について語る!
米林宏昌監督が短編『カニーニとカニーノ』について語る!

「初めは『メアリと魔女の花』のスピンオフを作ろうという企画があったようですが、それなら3本の新作短編を作ろうと西村プロデューサーが提案したのがスタートだったと聞いています」と、プロジェクト発足の経緯を明かす米林監督。「『メアリ』の制作がひと段落してから、どんな短編を作ろうかと考えた時に、小学生のころに国語の教科書で読んだ宮沢賢治さんの『やまなし』を思い出しました。あの作品の美しい世界観をカニの親子で、エンタテインメントとしてできないかと膨らませたのが『カニーニとカニーノ』のスタートです」。

『メアリと魔女の花』の制作が終わった直後、同じく『ちいさな英雄』の1編、山下明彦監督の『透明人間』に原画スタッフとして参加した米林監督が本作の制作に本格的に着手したのは今年に入ってから。「なかなかスタッフが集まらなくて大変だったんです(笑)」と近年のアニメーションブームならではの悩みを吐露しながら「CGを積極的に使う」という新境地に挑んだそう。

【写真を見る】日本語ではなく“カニ語”!?美しいタッチで描かれる海の中に注目!
【写真を見る】日本語ではなく“カニ語”!?美しいタッチで描かれる海の中に注目![c]2018 STUDIO PONOC

「舞台が水の中の世界なのですが、手描きの水はこれまで沢山の先輩たちが描いて来ました。でも線で描く水は制約も多い。いまなら新しい技術を通して、新しい水の表現ができるのではないかと考えました。手書きのアニメーションでは描けない世界が拡がっていました」。

また米林監督は「もう1つの挑戦でした」と、劇中に登場する台詞のほとんどが各キャラクター同士互いの名前を呼び合うだけで構成されている理由についても教えてくれた。「台詞を入れる展開も考えていたのですが、それでは短編に収まりきらなくなってしまうと考えました。なので、ジェスチャーであったり表情であったり、そういうもので見せることにしました。そのおかげでかえっておもしろくなったと思います」と笑顔を浮かべる。

さらに「名前だけでは補完できない心情は、我々のよくわからない言語でしゃべっています」と、劇中には“カニ語”が登場することも明かす。「キャストの人たちはすごく戸惑ったと思います(笑)。皆さんにはそれぞれの中で咀嚼して、何度もニュアンスを変えてトライしてもらいました。声優業に初めて挑む木村文乃さんも、鈴木梨央さんも、すごく良い演技をしてくれたと思っています」と自信たっぷりに語った。

『メアリと魔女の花』で知られる米林宏昌監督が重視していることとは?
『メアリと魔女の花』で知られる米林宏昌監督が重視していることとは?

8月31日(金)に、米林監督の前作でスタジオポノックの第1回作品でもある『メアリと魔女の花』が日本テレビ系「金曜ロードSHOW!」で地上波初放送を迎える。「『メアリ』は家族で観てもらえたらうれしいですね。魔法を失っても立ち上がって前に進んでいこうというメアリの想いに、子どもや大人も問わず、共感して観ていただけると思います」とにこやかに同作に込めた想いを語る。

そして「メアリは強い女の子でしたけど、今回の『カニーニとカニーノ』では、ちいさくて弱いカニの兄弟が手を取り合いながら前へ進んでいきます」と、本作との作風の違いを明かした米林監督は「子どもたちが、周りや自分と向き合っていく様を描いていきたい。どういう風にキャラクターたちに寄り添って丁寧に描いていけるかを、常に考えています」。スタジオジブリから巣立ち、スタジオポノックを背負って立つ一人の米林監督が、今後どのような作品を世界に送りだしていくのか目が離せない。

取材・文/久保田 和馬

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