「正真正銘のロマンスに」アンディ・サーキスが『ブレス』に託した“映画愛”

インタビュー

「正真正銘のロマンスに」アンディ・サーキスが『ブレス』に託した“映画愛”

余命数か月と宣告された絶望のなかで、愛する家族に支えられながらエネルギッシュに人生を謳歌した男の実話を『沈黙-サイレンス-』(16)や『ハクソー・リッジ』(16)のアンドリュー・ガーフィールド主演で映画化した『ブレス しあわせの呼吸』が9月7日(金)から公開。メガホンをとったアンディ・サーキスに、初監督作となった本作への強い想いやこだわりについて話を聞いた。

アンディ・サーキスが監督デビュー作への想いを語る!
アンディ・サーキスが監督デビュー作への想いを語る![c]2017 Breathe Films Limited, British Broadcasting Corporation and The British Film Institute.  All Rights Reserved

モーション・キャプチャーの第一人者として「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズのゴラム役や「猿の惑星」シリーズのシーザー役を演じ、ハリウッド映画には欠かすことのできない俳優として多くの監督から厚い信頼を寄せられてきたサーキスは、本作で長編監督デビュー。「俳優として活動してきたなかで、一人のキャラクターを通してだけでなく、映像を用いてストーリーを語っていくことに惹かれていった」と、監督業に踏みだしたきっかけを明かす。

「ブリジット・ジョーンズの日記」シリーズを手掛けたイギリス映画界を代表するプロデューサー、ジョナサン・カヴェンディッシュの両親が経験した実話を描いた本作。50年代後半、運命的な出会いを経て結婚したロビンとダイアナの2人だが、仕事で訪れたケニアでロビンはポリオを患い、首から下が完全に麻痺してしまう。医師の反対を押し切って自宅でロビンの介護を始めるダイアナのおかげで生きる気力を取り戻したロビンは、同じ境遇の人々のために力を尽くそうとするのだ。

ポリオを患い余命宣告を受けた主人公は、前向きに人生を謳歌していく
ポリオを患い余命宣告を受けた主人公は、前向きに人生を謳歌していく[c]2017 Breathe Films Limited, British Broadcasting Corporation and The British Film Institute.  All Rights Reserved

「初めて脚本を読んだ時、こんなにすばらしい物語に出会ったことがないと感じ、ぜひとも監督を務めたいとジョナサンに申し出たんだ」とサーキスは振り返る。これまで短編映画やビデオゲームなどで監督を務めてきたとはいえ、長編映画については「決してやり慣れている分野ではなかった」と控えめに語り「ジョナサンとこの映画をどのように語っていくべきか話した時に、僕は『ダイアナとロビンの互いへの愛を具現化したものにしたい』と言ったんだ」と、ストーリーテリングに強いこだわりを持って臨んだことを明かした。

「彼らのリアルな経験を描いている本作にあるのは、人間の精神が逆境を乗り越えていくさまと、残酷な運命を前にしても笑みを浮かべるポジティブな2人の姿。それはつまり、2人が愛し合っているからこそ生まれるものだと思った。2人が光を取り戻し、人生に彩りを取り戻していく姿を描きたかった。だから苦悩や苦労を描くものや暗くて苦しいものにすることは避け、正真正銘のロマンスにしようと心がけた」。

本作は、プロデューサーを務めるジョナサン・カヴェンディッシュの両親の実話
本作は、プロデューサーを務めるジョナサン・カヴェンディッシュの両親の実話[c]2017 Breathe Films Limited, British Broadcasting Corporation and The British Film Institute.  All Rights Reserved

そこでサーキスが参考にしたのは、イギリスの名匠デヴィッド・リーン監督の『逢びき』(45)や、アカデミー賞作品賞に輝くシドニー・ポラック監督の『愛と哀しみの果て』(85)だという。「過去のロマンティックな映画を参考にしたんだ。お客さんが可能性を感じ、かつ気持ちを高揚させるような映画をね。また、時代背景を考えて映画の中の色調やトーンもたくさんの作品を参考にして作り上げた」と、長年映画に携わってきた彼らしい強い映画愛をのぞかせた。

サーキスは11年にカヴェンディッシュと共同でモーション・キャプチャーなどの特殊効果を制作する会社「ザ・イマジナリウム」を設立。「猿の惑星」などのサーキス出演作品はもちろんのこと『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(15)や『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』(15)などのハリウッド大作に携わってきた。

「大学でビジュアルアーツを学び、俳優をしながら短編を撮ったり、脚本を書いたりしてきた。そして『ホビット』シリーズでは第2班監督もやらせてもらった。自然と映像の作り手になっていくなかで、ザ・イマジナリウムにたどり着いたと感じている」。そう語るサーキスは「モーション・キャプチャーの演技で培ってきた経験や技術は、次回作以降で活かされるだろう」と含みを持たせ「今後は技術を使ってどのようなストーリーテリングが可能になっていくのか、挑戦していきたい」と意気込みを語った。

取材・文/久保田 和馬

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