“全編PCやスマホの画面”の型破りな映画『search/サーチ』はどうやって成立した?監督を直撃
しかし、すべてが画面で展開する映画を、出演者やクルーに説明するのは、安易ではない。結果的にはソニーが配給権を買ったが、もともとはインディーズとして製作され、予算も限られていただけに、効率よく撮影を進めることは、非常に重要だ。そのために、チャガンティは、数々の工夫をし、準備を万端にしている。普通ならば、編集作業は撮影が全部終わってからやるものだが、今作では撮影前からエディターが作業を行ったのだ。まずはテスト版を作り、それを親しい人に見せては、「この文字は読めるか」「長すぎて読めないか」など、テストをし、実際の撮影に反映させた。
「そのテスト版も、映画と同じ、1時間40分の尺。つまり、撮影開始前に、僕らは準備としてまるまる1本、映画を作ったというわけだ。そこでは、デビッド、娘のマーゴット、娘の友達、女刑事ヴィック、すべての役柄を僕ひとりが演じている。その映像を、僕は外の人に決して見せたくないんだが、セヴは何かの機会に見せたがっているみたいでさ(笑)」
実際の撮影では、デビッドを、ジョン・チョーが演じた。メジャースタジオが配給するスリラーで、主人公がアジア人なのは、史上初めてのことらしい。当然のことながら、製作中、2人は何度も、「なぜアジア人なのか」と聞かれることになった。
「僕らはそもそもこの役をジョンのために書いたんだ。僕ら自身も、これが史上初めてであることは、2日くらい前に、ある雑誌の記事で読むまで知らなかったよ。映画の舞台と同じサンノゼ出身の僕にしたら、(アジア系が主人公の映画がこれまでなかったとは)狂っているとしか思えないね。僕らの映画が“メジャースタジオ配給の”と呼ばれること自体も、奇妙に感じたが(笑)」。
アジア人が多いシリコンバレーの話で、アジア人を主人公にするという、普通であるはずのことをやり遂げたのは、やはり移民である、20代の若者だった。その彼らは、もうすでに、次の斬新な映画の製作に入っている。タイトルは『Run(原題)』で、またもやスリラーとのことだ。
「とは言っても、今作とはまったく違う作品だよ。『search/サーチ2』を作ってほしいと言われ続けているけれど、コンピュータ画面の映画は、これで終わりだ。次の映画に、こういう画面は一度も出てこないよ!」
取材・文/猿渡由紀