ピンク映画界の鬼才・城定秀夫監督、“いい濡れ場”を撮る秘訣「生っぽい迫力を大事に」
手掛けた作品は100本以上にのぼり、『快楽交差点』(16)では第28回ピンク大賞・優秀作品賞を受賞。R15+のピンク映画を上映する「OP PICTURES+フェス2018」のオープニング作品『恋の豚』の監督も務めるなど、“ピンク映画界の鬼才”と言われる城定秀夫監督。『私の奴隷になりなさい』(12)の新章、『私の奴隷になりなさい第2章 ご主人様と呼ばせてください』(9月29日公開)、『私の奴隷になりなさい第3章 おまえ次第』(10月13日公開)では、女たちがご主人様に身も心も支配され、性の悦びに目覚めていく姿を惜しみない濡れ場と共に描いている。城定監督にインタビューし、いい濡れ場を撮る秘訣を聞いた。
サタミシュウの官能小説を映画化した本シリーズ。『私の奴隷になりなさい第2章 ご主人様と呼ばせてください』では、人妻・明乃(行平あい佳)を、『私の奴隷になりなさい第3章 おまえ次第』(10月13日公開)では、地味な書店員・繭子(杉山未央)をヒロインに、目黒(毎熊克哉)という男との出会いによって、女性たちが欲望を解放していく姿を映しだす。
ピンク映画からキャリアをスタートさせた城定監督だが、「エロに対する感覚が麻痺し、エロのなんたるかを見失っていた時に依頼されたのが、本企画」とのこと。本作では、性愛描写によって女性の変化が表現されていくが、「ピンク映画をやっていても、たいていは別のストーリーがあって、そのなかでセックスシーンが描かれる。濡れ場でストーリーをつないでいくというのは、今回一つのチャレンジになりました」と言うように、真正面から「性の快楽とは?エロスとは?」と考え直す機会になったという。
明乃の変化で考えてみると、初めて明乃が目黒と体を重ねるシーンは、目黒が彼女の禁断の扉をこじ開けることになる場面。「“こじ開ける”ことを表現する、部分描写」にこだわったという。
「目黒が明乃に口を開けさせますが、その唇や、無理やり口に入っていく舌をクローズアップで撮ったり、セリフではなく肉体ですべてを表現したいと思いました」。次第に性の悦びに目覚めていく明乃は、首輪をはめられながらも輝くような笑顔を見せていく。「明乃が自宅に目黒を招き入れてする濡れ場は、楽しそうに演じてくださいとお願いしました。行平さんは『蝶のように演じてみてはどうでしょうか』とアイデアを出してくださって。毎熊さんもおもしろい意見をたくさん出してくださいました」と役者の意見も取り入れながら、女性が花開いていく過程を作り上げていったという。
いい濡れ場を撮る秘訣について聞いてみると、「人によってはビデオコンテを作って、濡れ場の演出をされる方もいますし、人それぞれだと思いますが、僕はガチガチに決めないで、なるべく役者さんに任せるようにしています」と城定監督。「極論を言ってしまえば、自分がセックスをする時はどうやるかを考えてほしいということ。なかなかそういう言い方はできないので、『気持ちでやってください』とお願いします。それにカメラや照明を付いていかせるような撮り方ですね。画やイメージが先にあって、そこに役者さんに入ってもらうのではなく、役者さんがいて、スタッフはそれをどう撮るかを考えましょうという感じです」。
さらに「濡れ場に関しては、一切カット割りもしませんし、テストもしません。短期間で一気に撮り上げる」と臨場感や瞬発力が大事だと語る。「目黒役の毎熊さんもゼエゼエと息が上がってきます。そういった息遣いやリアルな汗も捉えることができる。またあまり時間を開けてしまうと、素の自分に戻って、恥ずかしくなったりしてしまう人もいると思います。そうなると濡れ場の迫力や勢いが落ちる。いつも僕は、生っぽい迫力を優先したいなと思っています」とその場の熱をも捉えるのが、城定流だ。
改めてエロに向き合ってみて感じたのは、「セックスとはなにか、男と女とはなにかというのは、絶対的な答えがないもの」ということ。「すべては人それぞれ。映画のなかに答えはないし、そういった不思議さや余白は残したいなと思っていました。男性、女性でもまったく違う見方ができると思いますし、誰の目線で見るかによっても、また違った楽しみ方ができると思います」。
取材・文/成田 おり枝