早見沙織「胸のときめきを覚えた」声優業のおもしろさを大いに語る
そよ風のような優しい声と確かな演技力を兼ね備え、世代を代表する人気声優となった早見沙織。『ミニオンズ』(15)の原作&音楽スタッフが贈る最新アニメーション映画『スモールフット』(公開中)では、イエティの女の子、ミーチーの日本語吹替えを担当。好奇心いっぱいのミーチーを生き生きと演じている。自身にとっての人生でもっとも大きな一歩は「声優という道を選んだこと」という早見だが、少女時代は「ものすごく引っ込み思案だった」のだとか。勇気を出す秘訣や声優業の醍醐味など、胸の内を明かしてもらった。
本作は、雪深い山頂の村に住むイエティのミーゴが、伝説の生き物“スモールフット=人間”に遭遇したことから始まるミュージックファンタジー。
早見は、村の掟を守る最長老ストーンキーパーの娘で、ミーゴの話を信じて、背中を押すイエティの女の子・ミーチー役を演じている。「好奇心が強くて、どんどん前に進んでいくような女の子。長老の娘でもあるので、好奇心旺盛でありながら、ちょっと気位が高いんです。“プリンセス感”を意識して演じました」と言うが、“プリンセス感”を出す秘訣は「おてんばになりすぎないこと。はしゃぐようなシーンでも、晴れやかで、たおやか。柔らかいイメージを保つようにしていました」と明かす。
本作では、伸びやかな歌声も披露している。ミーチーとして歌う劇中歌「WODERFUL LIFE」は、彼女の探究心を表現したもの。「歌っていると、世界がどんどん広がっていくような気持ちになって、自然と気持ちも盛り上がるような、壮大な曲。すごく前向きな気持ちで歌っていました」と心を込めた。本国版はゼンデイヤがミーチーを演じているが、「ゼンデイヤさんの声と合わせながら、日本語が持つ響きをうまく伝えられたらいいなと思っていました。歌の部分では特に、ゼンデイヤさんのミーチーともシンクロしていくような感覚があって。ゼンデイヤさんもとても楽しそうにお芝居をされていたんです。フィーリングを合わせていくのが、とても心地よかったです」と吹替えならではの醍醐味も実感したという。
「未知の世界に、第一人者として突き進んで行こうとする女の子。自分自身で生き方を見つけていく姿はとてもステキ」とミーチーの姿勢に惚れ惚れとする早見。「“新しいものを見たい”という気持ちは、私も持っています」と共通点を語るが、自身にとっての“大きな一歩を踏みだした経験”について聞いてみると「声優になったこと」と振り返る。
興味を持ったきっかけは、「小学生の時に洋画の吹替えを観て『どうやって海外の人が日本語を話しているんだろう?』と母に聞いて。そこからすごく興味がわいて、小さなころから観ていた魔法少女系のアニメなども“声を演じている人がいるんだ”と知り、映画やアニメの見方が変わったんです」とのこと。「中学1年生で、声優の養成所に通い始めたんです。中学生ってまだ知識もないし、声優がどんな仕事なのかわかっているようで、わかっていないところもあって(笑)。まっさらな時期だからこそ、思い切って一歩踏みだせたんだと思います。顧みずに“えい!”と飛び込んで、母もそんな私の背中をぐいぐいと押してくれました」とピュアな想いに突き動かされてきた。
映画『聲の形』(16)、テレビアニメ「魔法科高校の劣等生」「赤髪の白雪姫」など代表作も数多く、作品を重ねるごとに「発見や気づきがある」と、声優業への興味は膨らみ続けている様子。
「いつも、キャラクターから心理状態や記憶を引きだしてもらっているところがあって。演じることで、蓋をしておきたかった自分の記憶を吐きだして昇華させてもらったり、自身を省みるきっかけになっている。また“視点を変えたら、こう考えられるんだな”と思うこともあって、役が内面に影響を与えてくれることが多いんです。役に助けられて、自分自身の感情まで揺り動かされるのは、このお仕事ならではの魅力。自分の気持ちに訴えかけてくれるような役柄に、たくさん出会っています」と役と溶け合うように、人生を歩んでいる。「ミーチーからもらったのは、前向きな清々しさ。アフレコの時も前のめりになってしまって、マイクに近づき過ぎてしまいました(笑)」。
不思議な体験ができるのも声優業のおもしろさで「小さな女の子向けのアニメで、変身シーンを演じたことがあって。リハーサルビデオを見た瞬間に、えも言われぬ胸のときめきを覚えました(笑)。小さいころに見ていた原風景を思い出して、ものすごくワクワクしたんです」と笑顔を弾けさせる。充実感がひしひしと伝わるが「毎回、緊張もするし、いつも試行錯誤」との告白も。「小さなころは、ものすごく引っ込み思案だったんです。ショーとかを見に行って『ステージに上がるお友だちいますか?』と言われても、絶対に手を上げないタイプ(笑)。人生とは不思議なものですね」。
新たなチャレンジに「怖い」と思うこともいっぱいあると明かすが、勇気を出すうえで大事にしている考え方はあるだろうか?「先日、学生時代の友だちと話していても思ったんですが、“ものすごく緊張する”ということほど、あとあと自分の血となり肉となっている気がするんです。怖いと思っても、きっとあとで力になるはず。そう感じると『よし、がんばろう』と思うことができます」。柔らかさのなかに、凛とした美しさを持った女性・早見沙織。これからもどんな役と出会っていくのか、楽しみで仕方ない。
取材・文/成田 おり枝