『カメ止め』上田監督も共鳴! 榎本憲男が『ブルーロータス』に込めた“自由”への想い【榎本憲男×上田慎一郎 特別対談 第2回】
テクノロジーの進化は世界をどんどん計算してしまい、ストーリーに影響を与えている。(榎本)
真行寺が捜査を進めていく上で相棒となるのが黒木という青年ハッカーだというのも、本シリーズの型破りなところである。上田監督はこの二人の関係が大変気に入っているようで、「真行寺と黒木のバディ感が最高だなと思います。黒木、めっちゃ好きです(笑)。出てくると『待ってました』感があって安心します」と伝えると、榎本氏も「そこは推しておいてください(笑)」と楽しそうな表情を見せた。
「真行寺のキャラクターにはロック好きな榎本さんが入っているような気がしますが、黒木にはモデルがいるんですか?」という質問には、「30代半ばの若くて頭のいい友達が2人いて、彼らをミックスしたキャラクターです。彼らは僕のことをいつも馬鹿にするんですけどね、僕の知性は真行寺レベルだからまあしょうがない(苦笑)。だから、頭のいい黒木には、真行寺も見透かされてイジられるんですよ」と、軽妙な会話が自身の体験から生まれていることを明かす。
上田監督にとっては「エンタテインメント作品では、真行寺が持っているようなヒューマンな情熱が最後には勝つ、っていうのが通例なんですが、この作品ではそうならない」ということにも思うところが大きかったようだ。榎本氏は「その“情熱”とか“愛”とかに物語は頼ってきて、そういうもので最後は勝つというパターンに依存してきたんですが、そろそろヤバくなってきています。たとえば『マネーボール』という映画では、“金はなくてもデータで勝つ”という新機軸が従来のスポーツ映画の常識を覆しておもしろかったんだけど、この勝ち方ってのは、金のあるチームをさらに有利にしてしまうような勝利でしかなかったことは、その後の現実社会で証明されていますからね。ツール・ド・フランスを頂点とする自転車ロードレースなんかも、各選手がペダルを踏みこむ出力を算出して、その合計がチームの出力数となる。それを見ちゃうと、『この数字ではあのチームにはまず勝てない』ってわかっちゃうらしいんです。とにかく、愛とか情熱とか根性とか、理屈じゃないもので最後は勝つという筋書きにしていたけれど、こういうストーリーはもう通用しない。となると、愛や情熱や根性ではない“計算できないなにか”をどうやって作るのかがストーリーにとって大問題になっている気がするんです。テクノロジーの進化は世界をどんどん計算してしまう。それによって、自由や人間であることの意味も変わってきている、当然それはストーリーに影響を与えますよね」と語った。
「俺はいま、自由なんだろうか?」と問われているように感じながら、この小説を読んでいました。(上田)
自由が消えようとしている世界で「自由でありたい」と抵抗するのが真行寺であり、榎本氏のダイレクトなメッセージである。生きづらさを抱えながら生きている人には、これがとても刺さる。『カメラを止めるな!』以降、環境が激変している上田監督に、榎本氏が「上田くんはいまオファーがたくさん来てるでしょ。選択肢が増えたという意味では、自由になったんじゃない?」と尋ねると、上田監督は「まさに『俺はいま、自由なんだろうか?』と問われているように感じながら、この小説を読んでいたんです。選択肢はあるけれど、仲間うちで本当に好きなものを工夫して作っていた時のほうが自由だったんじゃないのか? と考えさせられましたね」と、少し神妙な面持ちで答えた。
榎本氏は、本シリーズが好評で、すでに第3弾の刊行が決まっているとのこと。上田監督は「楽しみです!『自由マグカップ』も作ったらいいんじゃないですか?」と、作中での真行寺の愛用品をグッズ化することを提案し、「『カメ止め』とちがって、売れないよ」と榎本氏を苦笑いさせた。だが、その場にいた一同が「ほしい!」と好反応を示し、真行寺というキャラクターの魅力を改めて感じさせ、さらなる続編への期待も膨らませた。
<榎本憲男×上田慎一郎 特別対談 第3回に続く>
取材・文/深谷直子