宇多丸が、カルト的人気を誇る森田芳光監督作『ときめきに死す』を語りつくす!
「ジュリーが殺し屋の役だから体を作り込んで来ようかと言ったら、森田監督は『しないでくれ』と言ったっていう。いまで言うところのオタク的な青年像で、体もぽちゃんとして、ぶっちゃけた話格好が悪い。あの感じのままでいこうというのも先見の明なのではないでしょうか」と宇多丸が森田監督作品の特異さを力説すると、三沢も「後々の『模倣犯』の中居くんにも繋がっているのかもしれませんね。その時点で沢田さんも、この映画は正統的なものとは一線を画した映画だと理解したんじゃないかと思います」とコメント。
また宇多丸が「『太陽を盗んだ男』がかっこいいジュリー感を出してのテロリストだったので、俺はこういう使い方をするんだぞという森田さん流のひねりではないか」と、本作の後に製作された『メイン・テーマ』(84)での薬師丸ひろ子も例に挙げながら仮説を提唱すると、三沢も「聞いてないけどそうだと思います」と深く頷いた。
さらに本作に込められたテーマをはじめ、自主映画時代の作品や初期の作品との表現のリンクや、森田監督の生い立ちに基づいた女性キャラクターの描き方、また徹底的にこだわり抜かれた本作での色彩設計や技術的なアイデアの数々に触れていく2人。本作の最大の見どころでもある強烈なクライマックスの車のシーンについて三沢は「後年にリメイクすることになる、黒澤明監督の『椿三十郎』のラストがあると思います」とも明かした。
エンドロールで音楽がマーチ調になることについて「粛々と何かが過ぎて行ってしまった感じとファシズム感。時代がきな臭い方に行ってしまう空気を感じた」と宇多丸が語ると、「ぐるぐる回って不穏なものを世界は含んでいるとこの映画には込められている」と三沢は本作に込められたメッセージを解説する。そして宇多丸は最後に「一見メッセージがないタイプの映画に見えるようで強烈な社会的な映画だと思います」とまとめた。
今回の特集上映では、つねに先進的なコンセプトのもとで作り上げられた森田監督の全作品を2か月にわたって毎週土日に連続上映。すべての上映回で宇多丸と三沢のトークショーが開催される。
取材・文/久保田 和馬