ロングランヒット作『若おかみは小学生!』に「ガルパン」『映画 聲の形』まで…脚本家・吉田玲子の魅力
現在、公開中の劇場版『若おかみは小学生!』が絶好調。公開直後の成績こそ大きく振るわなかったが、SNSなどの口コミでじわじわと人気が拡大。『君の名は。』(16)の新海誠監督ら、著名人もツイートで絶賛して動員アップを後押ししている。そんな本作の脚本を手掛けたのが、映画・テレビを問わず数々の作品で知られるヒットメーカー・吉田玲子だ。
丁寧に描きだされた少年少女の心の機微
“吉田作品”と聞いてファンが思い浮かべるのは、“少年少女の成長”を描く作品ではないだろうか。例えば、“戦車道”で全国優勝を目指す女子高生たちの物語が展開する「ガールズ&パンツァー」。主人公が過去の葛藤を乗り越え、自身の戦車道と向き合っていく姿が感動を呼んだ。
自転車競技をテーマにした「弱虫ペダル」では、オタク少年が秋葉原通いで鍛えた足を武器に全国の強豪たちと激突。チームで戦うことの難しさやスランプを克服し、心身共に成長していく。
また、『映画 聲の形』(16)では、聴覚障害を持つ少女と、彼女をいじめていた少年の出会いと再会、そして新たな関係を築くまでを、ヒリヒリとした感情の交換と共に描き切った。
ほかにも「デジモンアドベンチャー」シリーズ、「けいおん!」、『リズと青い鳥』(18)と、作品を数え上げればきりがない。もともと吉田脚本には、無駄な言葉を排除したテンポのよいセリフ回しで“観る者に行間を読ませる”シーンが多く見られるが、そうした手法が少年少女期の揺れ動く感情の表現とうまくリンクし、観客の心を掴んでいるのかもしれない。セリフの裏に秘められた見えない(見せない)本音、そこに共感するファンも少なくないはずだ。
辛い現実に向き合うヒロインの葛藤を前向きに表現
『若おかみは小学生!』もまた、事故で両親を亡くし、祖母が営む旅館で若おかみをすることになった少女おっこの成長物語。原作ではサラッと流された両親の死を、映画ではより踏み込んで描き、その現実と向き合うおっこの葛藤にスポットを当てていく。個性的なユーレイやクセのある宿泊客とのワクワクするような交流、その裏でおっこを苦しめるあまりにも辛い現実。ともすればヘビーになりがちなストーリーを、湿っぽいセリフを並べることなく前向きに描けるのは、やはり吉田の脚本によるところが大きいだろう。
公開から2か月以上が経過しながらも、各地でロングラン上映されている本作。児童文学を原作とするアニメ作品が、吉田玲子の脚本と合わさり、どのような相乗効果を生んでいるのか、ぜひ映画館で確かめてほしい。
文/トライワークス