“女の子”と名指されるすべての存在を抱きしめたい。山戸結希×松本花奈の相思相愛インタビュー【前編】

インタビュー

“女の子”と名指されるすべての存在を抱きしめたい。山戸結希×松本花奈の相思相愛インタビュー【前編】

山戸監督の「ギュッとしているカット、撮ってもらっていいですか?」との提案で、相思相愛ショットが実現!
山戸監督の「ギュッとしているカット、撮ってもらっていいですか?」との提案で、相思相愛ショットが実現!撮影/編集部

『溺れるナイフ』の山戸結希監督が企画・プロデュースを手掛ける、オムニバス映画『21世紀の女の子』。映画の紹介文に「21世紀の女の子の、女の子による、女の子のための、とびっきりの映画たち」とあるように、本作には山戸監督を含む、80年代後半から90年代生まれの多大な才能と未知の可能性を秘めた15名の新進映画監督が参加する。今回は、本作に参加した松本花奈監督と山戸監督に、この映画について話を伺う。

「次に表現を始める彼女たちにとって、手渡されるべき芸術を創りたかった」(山戸)

――山戸監督は以前からインタビューなどで「10代の女の子たちに自分の映画を届けたい」とおっしゃっていました。『21世紀の女の子』はまさに、その延長線上にあるプロジェクトだなと感じました。または、若手作家たちをもっと世に送り出したい、広めていきたいという想いがあるからなのではとも思いましたが。

山戸「新しい物語を届けたいという動機も大きいですし、それと同時に、映画を撮ってみたいと感じうる女の子に対して、その指針の提示は足りていないとも考えています。次に表現を始める彼女たちにとって、手渡されるべき芸術を創りたかった。ものづくりする自我が目覚めるころの女の子にとって、憧れの存在となりうる映画作家の方々が、こんなにいるんだということを、いま生きているということを、お見せしたかったですね」

『愛はどこにも消えない』(松本花奈監督)
『愛はどこにも消えない』(松本花奈監督)[c]21世紀の女の子製作委員会(ABCライツビジネス、Vap)

――若手映画作家を発掘することが目的というより、その先にいるスクリーンの前の観客である“女の子”こそが、山戸監督が見据えているものなんですね。

山戸「2つの視野は両立可能だと思いますし、相互的な関わりも存在しますね。今回は、自分自身が作品を通して心を動かされた方に、ご参加いただきたいと考えていました。本当に、1年前に企画を立ち上げた時、まだこれからどうなるかわからない、早すぎるタイミングだったかもしれませんが、松本監督にお声がけをさせていただきました」

松本「いやいや、そんな…」

『21世紀の女の子』の企画・プロデュースを務めた山戸結希監督、松本監督へは企画立ち上げ時にオファーしたそう
『21世紀の女の子』の企画・プロデュースを務めた山戸結希監督、松本監督へは企画立ち上げ時にオファーしたそう撮影/編集部

山戸「この映画をご一緒したことで、皆さんの背中を押せれば良いという思いがありましたが、参加してくださった方々は、まず背中を押すどころか、確かな力を持った方ばかりなので、ただただ、未来が楽しみです。松本監督に対しても、そんな想いです」

松本「恐れ多いです。もともと山戸監督の大ファンですし、お話をいただいた時、ただただうれしくて。なにより『21世紀の女の子』という言葉の持つ魅力がすごいなって感動しました。わくわくさせられる素敵な言葉です。また、“自分自身のセクシャリティあるいはジェンダーがゆらいだ瞬間が映っていること”という共通のテーマも、自分なりに解釈して、なにか作品として形にしたいと思わせてくれるものでした」

「女の子である私たちにしかできない表現は確実にあるなと思ったんです」(松本)

――『21世紀の女の子』というタイトルはもちろん山戸監督によるもので。山戸監督の中にある“女の子”というのはどんな存在なのでしょうか。

山戸「“女の子”と聞いて、花咲くような歓びをイメージされる方がいれば、“女の子”と聞くと、その言葉に押し付けられてきたジェンダーロールによる苦しみが蘇る方もいらっしゃるのではないでしょうか。そのトラウマを労わりたいと願っていますし、次の世代の子供たちに対しても、繰り返されてはならない傷だと感じています。それでも今、この言葉が使われることを、止めることは誰にもできない。言葉自体には、罪がないからです。コンテクストにだけ、罪がある。そしてだからこそ、言葉は物語を必要としていて、言葉の内実は、常に芸術によって塗り替えられてゆきます。つまりそこに一本の映画がありさえすれば、 “女の子”という言葉もまた、生まれ変わってゆける可能性を秘めている。自分たちがかつて“女の子”と名指された過去に対しても、止められない現在に対しても、そして来るべき未来に対しても、芸術表現だけが持ちうる救済があり、それが何よりも深いと信じています。そうした営為は、一見遠回りのように見えますが、“女の子”という言葉をひたすらに隠す局地戦よりも、ずっと速いストレートな路を創り出してゆきます。その言葉が一般名詞として通用されている現実から目をそらさずに、芸術の力を最大化することによって、そう名指されるすべての存在を真っ向から抱きしめたい。社会とは、芸術と断絶してあるべきものではなくて、芸術のために姿を変えてくれる、愛すべきものでもあるはずだから」

松本花奈監督
松本花奈監督撮影/編集部

――松本監督はいかがですか?

松本「私は、今回『愛はどこにも消えない』という作品を撮らせていただいているんですが、元々一番最初の脚本では、男の子と女の子のW主演で、どちらの感情も描こうとしていました。でも、主演が橋本愛さんに決まって、そこで、なにを伝えたいのかって改めて考えた時に、やっぱり今回は女の子だけの世界観にしようと。それで、その時に、当たり前ですけど、男性の視点とは絶対に違う、女の子である私たちにしかできない表現は確実にあるなと思ったんです。それって、実はいままで私はあまり意識的に考えてきてないことだったのですごく新鮮で。まったく新しい気づきがありました。女の子っておもしろい存在だなって」

山戸「松本監督は、リアルタイムに最も近い年代を生きながら、客観視する困難を軽々と超えて、これだけの鳥肌が立つようなアウトプットを届けてくださって。松本監督は、生きるスピード感が圧倒的なんですね。アクセルがぐっとかかると絶対に止まれない感じ。そんな松本監督が橋本愛さんと出会われて、そこでたった2人の間だけにある、言葉にならないつながりが生まれたことがふかく伝わってきました。出会いからアクセルが上がり続ける感覚や、生きている速度の疾走感が、8分間の中に濃縮されていて。本当に何度観ても、息が止まりそうになる作品です」

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