奥山大史×松本花奈が語る、友情の儚さと尊さを、スクリーンに刻み込む方法|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
奥山大史×松本花奈が語る、友情の儚さと尊さを、スクリーンに刻み込む方法

コラム

奥山大史×松本花奈が語る、友情の儚さと尊さを、スクリーンに刻み込む方法

松本花奈監督が、奥山大史監督に”友達”について問いかける
松本花奈監督が、奥山大史監督に”友達”について問いかける撮影/塚本弦汰

注目の現役女子大生映画監督・松本花奈による、日々雑感エッセイ「松本花奈の恋でも恋でも進まない。」が、「DVD&動画配信でーた」で好評連載中。Movie Walkerの特別企画として、松本監督が”いま気になる人”に、質問を投げかけます。今回は連載第7回のテーマ “友達” について、映画『僕はイエス様が嫌い』が5月31日(金)に公開を控える映画監督の奥山大史と語り合った。

【写真を見る】奥山大史監督の映画「僕はイエス様が嫌い」のロケ地でインタビュー!
【写真を見る】奥山大史監督の映画「僕はイエス様が嫌い」のロケ地でインタビュー!撮影/塚本弦汰

松本「ここは映画『僕はイエス様が嫌い』の劇中で家族の食卓シーンが撮影されていた場所ですが、実際にどなたかが住まれているお家なのですか?」 

奥山「はい。高校時代の友達のおばあちゃんのお家です。その友達とはそのまま大学も同じで、映画が好きと言っていたので『僕はイエス様が嫌い』を撮る時に声をかけて制作部として参加してもらいました。最初は本当にノリのような軽い流れだったのですが、結果的には機材車を運転して、お弁当を買って、役者さんとのコミュニケーションもとり、ロケ場所も貸してくれて...と本当にお世話になりました。撮影直前はしばらくこのお家に泊まり込んで、香盤を組んだり機材チェックをしたりしていたので、今日久しぶりに来られて少しうれしいです」

松本「第二の家のような感じになりそうですね。その友達やおばあちゃんは完成された映画はご覧になられましたか?」

奥山「友達は観てくれました。ただ、そのおばあちゃんは撮影中から入院されていて映画が完成する前に亡くなってしまったので見れていません。でもエンドロールには”衣装協力”として、お名前を入れさせて頂いています。主人公であるユラのおばあちゃんの衣装としてお洋服をお借りしたので。映画を見た方に、ユラのおばあちゃんの着ている服がセンスがあって良かった、と言ってもらうことも多いですね。」

松本「それは私もすごく感じました。上品だけど、可愛さもあって良いなあと」

奥山「感謝です」

松本「今日は映画のお話や今回の連載のテーマでもある"友達"の話を色々と出来ればと思います。宜しくお願いします」

奥山「はい。お願いします」

まさにこの食卓を、奥山監督と松本監督に囲んで対談してもらった
まさにこの食卓を、奥山監督と松本監督に囲んで対談してもらった[c]2019 閉会宣言

「幼いころの友情の記憶を映画に残しておきたい」

松本「奥山さんとは私が2017年に撮った映画『過ぎて行け、延滞10代』で一緒に作品を創ったことがあって、あの時は撮影をして下さったのですが、いやはや、あれからもう2年経ったとは...」

奥山「大変な撮影でしたね(笑)。でも結果素敵なものが出来て良かったなと思います」

映画『過ぎて行け、延滞10代』は2017年12月2日〜15日に 新宿K'sシネマにて上映された
映画『過ぎて行け、延滞10代』は2017年12月2日〜15日に 新宿K'sシネマにて上映された[c]映画「過ぎて行け、延滞10代」製作委員会

松本「ただ一番初めの出会いはもっと前ですね。奥山さんはいま23歳で、私は21歳ですがお互いが10代の頃。覚えてますか?」

奥山「覚えてます。渋谷のUPLINKで開催されていた『10代の映画祭』。これは10代の監督による作品だけを上映する映画祭ですが、その時僕は19歳で、松本さんは17歳。その時に挨拶だけしましたよね」

松本「はい。で、その後も別の映画祭で会ったり、奥山さんがやられていた渋谷のラジオの番組にゲストで呼んで頂いたりなど、ちょくちょく交流がありました。私は奥山さんが監督したSpecocoさんの『バトン』のPVが好きで、もっともっと長くこの世界観を見ていたいとずっと思っていたので長編映画を撮られると聞いたときすごく楽しみでした。映画『僕はイエス様が嫌い』、試写会にお誘い頂き一足先に観たのですが...本当に素敵な映画でした。普通は大人になっていくにつれて忘れていってしまうまっすぐとした感情を、一切嘘なく瑞々しく描いていて。自分がもっと歳を重ねて、40歳とか50歳とかになってもずっと繰り返し観続けたいと欲する、人生で大切にするべきものが沢山詰まっている作品だと思います。着想はどういうところからだったのですか?」

奥山「実体験です。キリスト教系の学校に通っていたので、その時に自分が感じたことを元に映画を作ろうと。とはいえ、宗教をテーマにというよりかは友情をテーマにしたいと思っていました」

松本「どうして友情をテーマにしようと思ったのですか?」

奥山「幼稚園から大学まで一貫の学校に通っていたので、18年間くらいずっと同じ友達といたんです。もちろん学生の時はずっと一緒にいるので家族のような感じで仲が良いのですが、やっぱり社会人になるとどうしても皆忙しくなって会う機会も減るんだろうな...という想像をしていました。大学を卒業して一年経ちますが、実際にそうですし。だから、幼いころの友情の記憶を映画に残しておきたいなという気持ちがありました」

1996年生まれ、東京都出身の奥山大史監督。本作では監督・撮影・脚本・編集を務める
1996年生まれ、東京都出身の奥山大史監督。本作では監督・撮影・脚本・編集を務める撮影/塚本弦汰

松本「18年間!それは新生活が訪れることが少し寂しくも感じそうですね...。でも、私も少しだけ撮影現場にお邪魔させて頂いたのですが、現場のスタッフの方は殆どが私たちと同世代くらいでしたよね。このお家を貸して下さっている方も高校の同級生とのことでしたが、他にもスタッフの中に友達はいらっしゃったんですか?」

奥山「元々が大学の卒業制作として作っているので、同世代の友達は沢山関わってくれています。例えば、チャド・マレーンさん演じるイエス様の、デモ撮影をする際の衣装を作ってくれたのは小学校時代からの友達です。僕は昔フィギュアスケートを習っていたのですが、彼も同じくで数少ない男の子のフィギュアスケート仲間でした。ですが、高校に入った辺りから突然女装を始めて、一人称が『わたし』になって」

松本「ふむふむ」

1998年生まれ、大阪府出身の松本花奈監督、奥山監督との出会いは17歳の時
1998年生まれ、大阪府出身の松本花奈監督、奥山監督との出会いは17歳の時撮影/塚本弦汰

奥山「いまではほとんど女性です。いまでも仲が良くて、大学生になってから洋服作りを始めてブランドを立ち上げた時はそのブランドムービーを作ったりしました。この作品は、彼に限らず協力してくれた友達が沢山いるので、 "友達と作った、友達の映画" とも言えるかもしれません」

松本「なるほど。でも映像制作に限らずですが、モノを創る者同士に友達関係があるというのは非常に大切なことだと思います。完全の仕事だけの関係だったら、100パーセントのものは出せても、その先は出せない。でも相手への『愛』があったら、120パーセントを出そうとする。もちろん一概にそうだとは言えませんが、どうしたって皆心を持った人間だからそういう面もあると思います」

「カメラが回っていない、2人だけの時間があった」

松本「作品の強い魅力にユラくんと友達のカズマくんのリアリティ溢れるシーンの数々が挙げられますが、実際のお二人も仲が良かったのですか?」

奥山「最初はまったく仲良くなかったんです。子ども同士の関係性って絶対にスクリーンに写ってしまうからどうしようかなと思っていて...とにかく会う回数を増やすしかないかと思って、撮影に入る前に何度もリハーサルを重ねましたが、お互いのよそよそしさが中々抜けなかった。でも、一番初めに別荘でユラとカズマが遊ぶシーンを撮ったのですが、そこから一気に距離が縮まったようでした。正確に言うと、ロケ地に辿り着くまでに雪道で機材車がスリップしたりなどのトラブルにより一時撮影がストップしてしまったのですが、その間に二人でかまくらを作ったりしていて、その内に仲良しに。カメラが回っていない、2人だけの時間があったのが良かったのだと思います。ユラとカズマは永遠に友達でいるんだろうな、と思ってもらえるように描きたかったので、これに関しては、不幸中の幸いでしたね」

松本「では、2人は撮影が終わってからもプライベートで遊びに行ったりしていたんでしょうか?」

佐藤結良(写真右)がユラ役を、同級生のカズマ役を大熊理樹(同左)が演じた
佐藤結良(写真右)がユラ役を、同級生のカズマ役を大熊理樹(同左)が演じた[c]2019 閉会宣言

奥山「それがそうではなかったようで...。舞台挨拶で久しぶりに会ってもまるで他人(笑)」

松本「ええ、一緒にかまくらを作った思い出は一体どこへ...」

奥山「(笑)。初めはそれがすごく不思議だったんですが、よくよく考えてみると確かに小学生くらいの頃ってある瞬間にすごく仲が良くなったとしても、そこから暫く会わないでいるとせっかく縮まった距離がまた一気に元に戻ってしまうことがある。気恥ずかしさとかもあるんだと思います」

松本「その気持ちはすごく分かります。空白の期間が長すぎたりすると、その間にお互いが何をしていたかって話すには時間が足りなさすぎてあえて語らないでいるといつしか話すことがなくなったりとか...。まあ、お互い色々あって結果成長したんだね、うんうん、みたいな」

奥山「ユラくんたちはお互いのLINEすら知らないそうでした」

松本「え、2人ともまだ小学生なのにLINEやってるんですか?」

奥山「みたいですね。いまの子どもたちは、友達になるキッカケも友達じゃなくなるキッカケもLINEが多いらしいですよ」

松本「というのは?」

奥山「映画を作るに当たって、母校を訪ねて先生に取材をしたのですが、先生方にとってもLINEは大きな課題だと仰っていました。例えば僕らの時ってイジメだと、仲間外れにして遊ぶ時に誘わないとか、行動として出るものだったけれど、今はLINEのグループから退出させたりすることがあるらしく...。可視化される且つ複数人に認知されるようになっていて、それはすごく不愉快。今だと簡単にLINEや電話で連絡がとれちゃうけど、僕らの時はギリそうではなかったと思う。特に小学生の頃とかだとまだ携帯を持っている人も少なかったし...。この映画では、いまの時代の友情関係ではないものを描きたかったので、時代設定は少し昔の2000年ごろにしています」

『僕はイエス様が嫌い』の舞台は、雪深い地方のミッション系の小学校
『僕はイエス様が嫌い』の舞台は、雪深い地方のミッション系の小学校[c]2019 閉会宣言

「友達という存在は、儚いものだからこそ大切にしないといけない」

松本「きっとどの時代を生きる人にも1人や2人、大切な友達がいると思います。でも、友達ってお互いの環境が変わったりすると会う機会が減ってしまったりして、正直友達関係に永遠なんてないんじゃないかと思ってしまっていました。でも「僕はイエス様が嫌い」を見て、きっとユラくんとカズマくんは永遠に友達でいるのだと思ったし、大切なことを色々と気付かされたような気がします」

タイトルロゴが印象的な『僕はイエス様が嫌い』ポスターと並んで
タイトルロゴが印象的な『僕はイエス様が嫌い』ポスターと並んで撮影/塚本弦汰

奥山「そう思ってもらえたなら、すごくうれしいですね。友達という存在は、小学生の時以来、すごく儚いものだからこそ大切にしないといけないと感じていて...。そういった友情の儚さも、この映画から感じ取って頂けたらうれしいです」

   
   

●奥山大史

1996年東京生まれ。初監督長編映画「僕はイエス様が嫌い」が、第66回サンセバスチャン国際映画祭の最優秀新人監督賞を史上最年少で受賞。学生時代に監督した短編映画「Tokyo 2001/10/21 22:32~22:41」(主演:大竹しのぶ)は、第23回釜山国際映画祭に正式出品された。撮影監督としても映画「過ぎていけ、延滞10代」などを撮影する他、GUやLOFTのCM撮影も担当。

取材・文/松本花奈

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