ピカソ、デュシャン…アート作品へのオマージュも多数の摩訶不思議な世界観の映画とは?
フランスで大ヒットを記録し、セザール賞5部門を受賞した、公開中の映画『天国でまた会おう』。テリー・ギリアムやティム・バートン、ジャン=ピエール・ジュネといった個性派監督たちを彷彿させる、これまで観たことのないような不可思議な世界観が高く評価されている。
「このミステリーがすごい!」大賞など、日本のブックランキングで7冠を達成した「その女アレックス」のピエール・ルメートルが、ゴンクール賞受賞の同名小説を自身初となる脚本を担当して映画化した本作。あらすじは、第1次世界大戦後のフランスを舞台に、戦争で顔に重傷を負った青年エドゥアール(ナウエル・ペレーズ・ビスカヤート)と仕事も恋人も失ったアルベール(アルベール・デュポンテル)が、帰還兵を冷遇する国を相手に、巨額を巻き上げる大胆な詐欺を企てるが、その先には本当の狙いがあり…というものだ。
ストーリーだけを聞く分には、摩訶不思議という印象は薄い本作だが、ここに映像が加わることで、一気にファンタジックなものに。そもそも舞台となる20世紀初頭のフランスは、アートが大きな変化を遂げ、キュビスムやシュールレアリスムなど、多彩なアートが存在した時代。こういった現実性とかけ離れた前衛的なアートの要素を美術に反映しており、観ているだけで、引き込まれてしまうようなどこか浮世離れしたビジュアルに仕上がっているのだ。
また、実際の様々なアート作品へのオマージュも込められている本作。青年エドゥアールは、戦争で“過去”の半分を失ってしまうと、芸術家らしくその時々の感情に合わせたマスクを自分で作り、装着している。例えば、ピカソのキュビスムの代表作「アビニヨンの娘たち」をモチーフにした青い髪の女性の仮面や、かの有名なマルセル・デュシャンの「泉」をオマージュした便器のような仮面など、随所にアートが顔を覗かせているのだ。
とはいえ決してアートな部分だけが先行しているとっつきにくい作品というわけではなく、コミカルにテンポよく進む物語など、誰にでも楽しめるエンタメに仕上がっている本作。ぜひ劇場に足を運んで、この不思議な世界観に浸ってみてほしい。
文/トライワークス