『殺人鬼を飼う女』の飛鳥凛、女性3対男性1の壮絶なラブシーンの舞台裏を告白
「リング」シリーズなどで知られるJホラーの第一人者、中田秀夫監督が手掛けたエロティシズムあふれるサスペンスホラー映画『殺人鬼を飼う女』(4月12日公開)。主演を務めたのは、「ロマンポルノ・リブート・プロジェクト」の第1作『ホワイトリリー』(17)で、中田監督の下、女性同士の艶めかしいラブシーンで体当たりの演技を見せた飛鳥凛だ。今回も中田組で、よりステージの高い官能表現に挑んだ飛鳥を直撃し、その舞台裏について聞いた。
本作は、タブーとされる題材をテーマに、エッジの利いた作品を発信するKADOKAWAとハピネットの共同製作「ハイテンション・ムービー・プロジェクト」第1弾。中田監督から再びラブコールを受けた飛鳥は、「とてもうれしかったです」と二つ返事で本作に臨んだが、演じたヒロインのキョウコはかなりの難役だった。原作は「甘い鞭」や「呪怨」を代表作として持つ大石圭による同名小説。キョウコのなかには、幼少期に義理の父から受けたすさまじい虐待が原因か、複数の人格が潜んでいる。
「男性とのラブシーンよりも、余計な邪念がなく演じられました」
キョウコの別人格として、レズビアンの直美(大島正華)、自由奔放で性に開放的なゆかり(松山愛里)、虐待された少女時代のままのハル(中谷仁美)を、それぞれ別の女優3人が演じている点も興味深い。飛鳥も「多重人格の役だから絶対に難しいと思ったし、1人を4人で演じるということで、脚本を読んだ段階では、どういう画になるのかわからず、最初はかなり緊張していました」と振り返る。
飛鳥はまず、多重人格について徹底的にリサーチをした。「多重人格に関連する本を読み、ドキュメンタリー番組も見つけ次第、見ていきました。あまりにも入り込みすぎて、気分が落ち込んでしまうこともありましたが、そういう時は(飼っている)犬と過ごすと、リセットされるので良かったです」。
『ホワイトリリー』の時と同様に、撮影前にリハーサルを行ったことで、女優陣の士気が高まったようだ。「実際に撮影で使うマンションで、本番さながらのリハーサルをやったので、すごく贅沢な時間を過ごさせていただきました。中田監督が役の心理状態を丁寧にお話してくれたし、リハーサルを積んだことで、共演者の女の子たちとも腹を割って話せました。やはりラブシーンは心を許してないとできないから、コミュニケーションをたっぷり取れたことで、安心して本番に挑めました」。
飛鳥は、『ホワイトリリー』のインタビュー時に「男性とのラブシーンよりも、余計な邪念がなく演じられました」と語っていたが、今回も「やっぱり女性同士のほうがいいですね」とうなずく。「相手が男性だと、男性側がすごく気を遣ってくださって、ぎくしゃくしたりすることもある。でも、女の子同士だと思うがままぶつかっていけるので、気持ちの面ではすごく楽です」。
クライマックスで展開される4人が絡み合うラブシーンは、観る者をくぎ付けにしそう。「台本を読んだ段階で覚悟を決め、みんなで『この日は朝から頑張るぞ!』という感じで挑みました。丸1日掛けて撮りましたが、体力と気力で勝負した感じでした」。
「衝撃的なシーンですが、エッシャーの絵を見てみんなで『なるほど』と思いました」
このシーンにチャレンジしたのは、飛鳥、大島、松山と、作中でキョウコが恋心を抱く小説家、田島冬樹役の水橋研二だ。日活出身で、ロマンポルノの小沼勝監督に師事していた中田監督にとっても、4人が絡み合うラブシーンの演出は初となった。現場で監督は、飛鳥たちにだまし絵の画家、エッシャーの「蛇」を見せ、4人が妖艶にもつれ合っているイメージをわかりやすく伝えたそうだ。
「4人でぐちゃぐちゃになるという衝撃的なシーンですが、その絵を見てみんなで『なるほど』と思いました。中田監督は、演技の例えもすごく上手いです。例えば『桃にかぶりつくように』とか、喘ぎ声についても『トラやヒョウの鳴き真似みたいな感じで』と、具体的な指示をくださいます」。
そのシーンでは、3人の女優陣を相手にした水橋の細やかな心遣いにも恐縮したという。「水橋さんは男性1人だったから、楽屋での居場所も含めてとても大変だったと思います。すごく気を遣われるやさしい方で、カットがかかるとすぐ、私たち対して『ガウンをかけてあげて』と言ってくれました。お芝居だけじゃなく、そういう気配りもしてくださって、本当に感謝しています」。
物語は後半で大きく動き、キョウコが息を呑むような行動に出る。最後に彼女が見せた表情については、観る人によっていろいろな解釈が生まれそうだ。演じた飛鳥は「彼女にとっては最善の選択だったのではないかと」と捉えた。
「幸せとは、自分の本心に向き合ったときに初めて答えが出るのかなと、今回のキョウコ役を通して感じました。誰しも周りの人の固定概念に縛られて生きていかなくていいんだと。それは中田監督の作品だったから気づけたことかもしれないし、原作小説を読んでいたからこそ、より深い部分について考えられたのかなとも思います。また、自分1人だと、1対1でしか伝えられない思いも、映画ならいろんな人が観て感じてくれる。もし、観てくれた人たちの心が動く瞬間を作ることができたのなら、すごくうれしいです」。
取材・文/山崎 伸子