【連載】『松本花奈の恋でも恋でも進まない。』第9回 夏が始まる前だというのに
「DVD&動画配信でーた」にて好評連載中の、注目の現役女子大生映画監督・松本花奈による日々雑感エッセイ「松本花奈の恋でも恋でも進まない。」。第9回のテーマは「夏が始まる前だというのに」。春は出会いと別れの季節と言うが、「結局は季節に関係なく出会いも別れも訪れるものだ」と言う松本監督。大好きな、とあるバンドとの突然の“別れ”について語ってくれました。
もう少し成長してから…と思っていたら、案外時間が経っていた
大型10連休、ゴールデンウィークの中盤にとてもショックなことがあった。4年ほど前から密かに応援していたバンドのギタリストが抜けるというのだ。正確にいうとサポート・メンバーにまわるそうだが、他のメンバーが彼の代わりに入るであろうことに変わりはない。私はそんな知らせをベッドの中で知った。
その日は朝から身体が怠かった。鼻血かと思い起きると鼻水で、体温計を取り出すと39.1度の熱…。慌ててその日の予定に断りの連絡を入れる。時計を見るとまだ朝の9時だ。身体の怠さは充分にあるが、眠気はあまりない。暇だ。映画でも観ようかと思うが、枕の高さの都合上少し首を上げていないとTV画面との高さが均一にならず画面がよく見えない。仕方なく諦めて大人しく寝ようとする。が、咳も止まらず安眠できそうにもない。こんなにしんどい風邪を引いたのはいつぶりだろうか…。気が付くと私はほぼ無意識的にiPhoneから音楽を流し、そのバンドの曲を聴いていた。
“ギタリストが抜ける”と知った時、私の頭の中でとある曲が流れ出した。それはそのバンドの代表曲だった。いわゆるメジャーで誰もが知っているようなバンドではなかったので、友人らに熱く語っても大抵「へー、聴いてみるわ」と言ってスルーされてしまっていたのだが、私は彼らのつくる音楽のどの曲にも流れる『人生立ち直れないこともあるけど、無理に立ち直ろうとしないで今できることをやろうぜ。今できることを粛々とやっていたら、いつかまた良いことがきっと、いや、絶対起こるから』というマインドが好きだったのだ。モラトリアムが何だというのだ、と聞こえてきそうだった。
3年ほど前の夏に、彼らの音楽をテーマに据えた映画のプロットを書いたことがあった。同じ高校に通う、受験に失敗して落ち込むAと、やんちゃでおふざけもののBと、容姿にコンプレックスを抱えているCという男子高校生ら3人が、20年前に一世を風靡し人気絶頂の最中突如姿を消し死んだと思われていた伝説のシンガーソングライターが実は生きているかもしれないというニュースを聞きつけ、夏休みにとある島に探しに旅をする、という内容だ。クライマックスのシーンで楽器初心者の3人がバンドを組み、伝説のシンガーに向けて彼らなりに曲を演奏する場面でそのバンドの楽曲が鳴ったら最高だろうな…と想像を膨らませていた。
何度かライブを見に行った後に、「この企画、私と一緒にやりませんか?」と声をかけようと思ったこともあったが、冷静に考えて予算や公開の目処もまだ何も立っていないなかでいきなりそれは失礼に当たるのではないか、そんな想いがよぎって勇気が出ないまま、結局そのプロットが私の手元から離れることはなかった。自分自身がもう少しビッグに成長してから、改めて。そんなことを思っていたら案外時間が経ってしまっていたようだった。
もちろん色々なことを考えたうえでの決断ということは痛いほど分かっているし、これからも私は変わらずずっとファンでいる。でも、やっぱりそんな綺麗事ばかりも言っていられなくて、何で辞めちゃったんだよ、もうちょっと待っていてほしかったよ、頑張れよ、と無責任に思いながら、再びiPhoneのボリュームをめいっぱい上げて部屋中に彼らの音楽を響かせた。もうすぐ夏が始まるというのに楽しみがひとつ減ってしまったことに嘆きつつ、すぐには前向きになれそうにない自分をそこまで嫌いにならずにいれたのは、やっぱり彼らの音楽のおかげなのかもしれないと思った。
今月のめでたい一枚:酔鯨純米吟醸「令和」
令和になる瞬間は渋谷の居酒屋で揚げ出し豆腐を食べてました。日をまたいだ瞬間にサッとお店の方が「令和酒」なるものをドヤ顔(!)で出してくださいました。皆さんはどのように過ごされましたか?
●松本花奈プロフィール
1998年生まれ。中学生の頃より映像制作を始める。慶應義塾大学在学中。主な映画監督作は『脱脱脱脱17』(16)、『過ぎて行け、延滞10代』(17)、オムニバス映画『21世紀の女の子』(18)など。撮影を担当したNMB48太田夢莉1st写真集『ノスタルチメンタル』が発売中。映画最新作は、第11回沖縄国際映画祭で上映された『キスカム!come on,kiss me again』。
文/松本花奈