“死に損ない“というより“生き損ない”? 佐藤浩市が武士の忠義について考える
江戸時代の主君仇討ち事件、元禄赤穂事件を示す忠臣蔵。時代劇の定番ともいえるこの題材を元にした『最後の忠臣蔵』が12月18日(土)に公開されるが、本作で佐藤浩市が演じているのは、赤穂浪士の生き残り・寺坂吉右衛門だ。忠臣蔵のその後を描くという異色の語り口に、佐藤も魅力を感じたという。
「今回、演じさせていただいた寺坂吉右衛門は、主の命により、死ではなく“生かされて”しまった男。武士として憤りや、生きながらの浮遊感のようなものを感じながら目的のために諸国を歩いて回るのです。最初にお話をいただいた時、日本人の誰もが知っている華やかな忠臣蔵とは違う面白さがある作品だなと思いました」。
主君への忠義を、死という形でまっとうした赤穂浪士たち。だが吉右衛門は、生きて後世に真実を伝えるという命を受けてしまった。佐藤はこの男のことを「生き損ない」と呼ぶ。
「武士の死生観は“死”という概念から始まっていると思うんですね。現代とは全く逆の考えからスタートしている。“生き損ない”というより“死に損ない”と言った方がわかりやすいんでしょうけれど、吉右衛門は死ねなかったことによって、その後の人生までも生き損なってしまった、そう思ったんです」。
名誉の死を選べず、生きて忠義をまっとうせざるをえなかった吉右衛門の葛藤は、見ている側にも痛いほど伝わってくる。そんな複雑な心情を表現した佐藤は、どのように役を固めていったのだろうか。
「吉右衛門は主である大石内蔵助の命によって、亡くなった赤穂浪士の遺族に討ち入りの全容を伝えることと、遺族が今後困らないようにお金を運んで回るのですが、必ず遺族に『なぜ、あなたは生き残っているのか?』と問いただされるんですよね。その問いに対して、吉右衛門は否定的な自分の生き方を語るんですが、皮肉にも吉右衛門はその時に自分の生を感じるんです。そういった吉右衛門の姿を作っていくのが僕の演じ方でした」。
吉右衛門と同じく、密命を受けて生き延びた孫左衛門を演じるのは役所広司。かつて共演した『THE 有頂天ホテル』(06)では絡みのシーンがなかったが、今回は男どうしの深い絆を感じさせるシーンもある。それも含めて、佐藤の名演をじっくりと味わってもらいたい。【トライワークス】