ハリウッドスターたちがフィギュア化?本人そっくりな“ミニチュア描写”のこだわりがスゴい!
劣悪な暴行により心と体に大きな傷を追った男性が、フィギュアで作り上げたミニチュアの世界を通して回復していく姿を描いたロバート・ゼメキス監督のヒューマンドラマ『マーウェン』(公開中)。ユニークなのが、作品の肝とも言えるミニチュアの世界の描写だ。
ヘイトクライム(憎悪犯罪)の被害に遭いながらも、独自の世界観を持つカメラマンとして活躍するマーク・ホーガンキャンプを追ったドキュメンタリー『マーウェンコル』(10)をベースにした本作。クロスドレッサー(異性装者)であるがために、バーからの帰り道に5人の男から暴行を受け、脳に障害を受けてしまったマーク(スティーヴ・カレル)。襲撃の後遺症(PTSD)に苦しみ、まともな治療を受けられなかった彼は、セラピーの代わりにミニチュア世界の創作活動により徐々に歩み出し、周囲の協力を得ながら個展を開催するまでに回復。これまで避けていた暴行事件の裁判で証言することを決意するが…。
マークが作り上げた架空の世界“マーウェン”は、第二次世界大戦が舞台で、G.I.ジョー人形のホーギー大尉とバービー人形たちがナチスの親衛隊と戦っていくという設定。マークを取り巻く現実が投影されているため、フィギュアたちの造形もスティーヴ・カレルをはじめ、ジャネール・モネイなどキャストたちの顔そっくりとなっているが、このフィギュアのディティールにゼメキス監督は相当こだわったそう。俳優の顔と体をデータでスキャンし、そこに様々な種類のデザインが施され、VFXで3次元化したものをフィギュア化。さらにそのフィギュアにヘアスタイルを追加し、改めてスキャンするという手間のかかる工程を踏んでおり、人形らしさを保ちつつも、俳優のキャラクター性を一目で感じさせる見事な出来となっているのだ。
そんなこだわりの人形たちが酒を飲んだり、ダンスを踊ったり、銃を乱射したりとイキイキと動く姿はファンタジックで映画ならでは。さらに塔の頂上から落下したナチスの兵士が尖塔に体をぶつけて、体が真っ二つになる様をチープに描いたブラックな一幕や、ゼメキス監督の代表作を思わせるような空飛ぶ乗り物の登場というどこか壮大なシーンなど、なんでもありな映像は、想像の世界の自由さを感じさせるものに。
最先端の技術によって命が吹き込まれた人形たちのユニークな描写の数々が楽しめる本作。ミニマムだが壮大という不思議なこの世界観を、ぜひ劇場で体感してみてもらいたい。
文/トライワークス