筒井真理子、役作りと撮影の裏話を告白!「この映画は愛でできていると思いました」
第69回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門審査員賞を受賞した『淵に立つ』(16)の深田晃司監督と、同作で数多くの映画賞を獲得した筒井真理子がふたたびタッグを組み、“無実の加害者”へと転落した女性の姿を描き出した『よこがお』(公開中)。本作の大ヒットを記念したトークショーが4日にテアトル新宿にて開催され、深田監督と筒井が登壇。映画評論家でライターの森直人が聞き手を務めるなか、作品や役作りの裏話などを語った。
先月27日に公開された本作は、興行通信社調べのミニシアターランキングで見事初登場1位を獲得するなど、すでに大きな反響を集めている。それについて筒井が「友人が平日の昼間でもたくさんのお客さんが入っていたと知らせてくれた」と明かし「とってもうれしいです」と語ると、深田監督も「うれしいの一言です」と満面の笑み。そして「今回時系列を入れ子構造にするという試みをやってみて、初めて観る人がどう観てくれるのか公開するまでわからなかった。でも、みなさんの感想を観る限りこちらの意図を汲み取っていただいてると感じ、安堵しています」と語った。
元々は深田監督の「『淵に立つ』の筒井さんをもう一度がっつり撮りたい」という想いから企画がスタートしたという本作。筒井も脚本を読む前から出演に快諾したとのことで、深田監督は「脚本を書く方としては、ものすごく自由で広いキャンバスを与えられた。リサと市子という二面性のあるキャラクターで変化をしていくけれど、筒井さんだったら全部演じきれるだろうと見越した上で書ける。脚本家として恵まれた環境でした」と、筒井へ全幅の信頼を寄せていたことを告白。
一方で筒井も「前にカンヌに行った時に『これはゴールじゃないよね』ってお話をした。だから台本がないときでも安心してオファーを受け入れられた」と振り返り「台本を読んで、犬のシーンなんですけど、監督おもしろいな、すごいメタファーだなって思っていたら『あ、やるの私なんだ』と気付き『どうやってやるの?』って戸惑いました」と明かす。それを受けて深田監督から、そのシーンの撮影の際に四足歩行世界一のトレーナーとアニマルトレーナーの専門家が2人がかりで“犬の歩き方”を開発したというエピソードが語られていた。
映画の大きな要となる、筒井演じる市子・リサの役作りついて深田監督は「筒井さんが市子というキャラクターをどう解釈してくれるのか見たかった」と、事細かに演出を行なわずに筒井に任せていたことを明かす。すると筒井は「ひとつだけ、市子を演じるにあたって本当に訪問介護させてもらったり同行させていただいた」と役作りのためにリサーチを重ねたことを明かし「実際の方に寄せて役を作ったのですが、監督はもうちょっとしっとりと凛とした感じでと仰っていた。その差がないとリサになった時の感じが出ないとのことで、その話し合いは注意深くしていました」と振り返った。
そんな中、森から「市子の状態では復讐はしないが、するとなったらリサに変身する。この強い抑圧がおもしろい」と本作の持つ“復讐劇”という側面について話があがると「あくまでも、復讐自体が達成されるかされないかが主眼ではなく、いろんなことを失って動物のような状態にまで戻ってしまった市子が、一矢報いることを考えることによって生きる時間を延ばしていくという、空回りの一環として復讐を描きたかった」と熱弁を振るう深田監督。そして「復讐のカタルシスに物語がフォーカスしないように気をつけていました」と力強く本作に込めた想いを語る。
また筒井は、市子が直面する“無実の加害者”としての境遇について「ソーシャルメディアとかマスメディアとか、ひとつレッテルが張られた瞬間に翻るように民意が変わっていったりするいまの時代を映している」と語り、「ずいぶん前から被害者の家族を演じてきましたが、加害者の家族を演じることは少なく、いつもどんな感じなんだろうなとずっと思っていました。なので今回脚本をいただいた時に、やっと演じられると思って嬉しかったです」と述懐。
その後、観客から劇中で筒井が湖に入るシーンについて「どういう想いで入りましたか?」と質問が寄せられると「役としてはどこか楽になりたいという気持ちで入っていったんですけど、個人としては極寒の雪が舞うなかで、『今日撮れるのか?』と思っていた」と撮影時のエピソードを語りはじめた筒井。「そんなときに土砂降りになってしまったのですが、スタッフの方は誰も傘をさそうとか雨宿りしようとかせずに、私が濡れているので全員びしょ濡れになってくれていました。本当に、この映画は愛でできていると思いました」と満面の笑みを浮かべていた。
そして現地時間8月7 日(水)から始まる第72回ロカルノ国際映画祭のコンペティション部門に本作が出品されることが話題にあがると「作品はもう完成しているので、できることはない。楽しんでくるしかありません!」と喜びと意気込みをあらわにした深田監督。同映画祭ではこれまで衣笠貞之助監督の『地獄門』(53)、市川崑監督の『野火』(59)、実相寺昭雄監督の『無常』(70)、小林政広監督の『愛の予感』(07)が最高賞である金豹賞を受賞。日本映画として12年ぶりの戴冠に、大いに期待したいところだ。
取材・文/久保田 和馬