京都アニメーション事件から3週間、「コミケ96」参加者それぞれの“祈り”

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京都アニメーション事件から3週間、「コミケ96」参加者それぞれの“祈り”

「涼宮ハルヒの憂鬱」「CLANNAD」などで知られるアニメ制作会社、京都アニメーションの第1スタジオで起きた、痛ましい事件から3週間が経過した今週末、日本最大級の同人誌即売会である「コミックマーケット96」(コミケ96)が4日間の日程で開催されている。

コミケの運営を担っているコミックマーケット準備会は、7日に発表した「京都アニメーション放火事件にあたって」と題した声明のなかで、「京都アニメーションさん自らによる募金の窓口が置かれ、支援の体制も整いつつあることから」と理由を明かしたうえで、準備会としての募金活動等を行わないことを表明し、「みなさんも各のやり方で応援していただけたらと思います」と、サークル、コスプレイヤー、ボランティア、来場者が一丸となって作りあげるコミケらしく、参加者の自主性を重んじる旨を述べた。

「小林さんちのメイドラゴン」グッズを多数販売する、双葉社ブース
「小林さんちのメイドラゴン」グッズを多数販売する、双葉社ブース撮影/黒羽政士

例年コミケでは、企業ブースでの公式グッズ販売、京アニ作品の同人誌を頒布するサークルはもちろん、お気に入りのキャラクターのコスプレを披露する参加者が後を絶たない。Movie Walkerでは、会場で京アニ作品のコスプレをした参加者たちに、溢れんばかりの想いを聞いた。

2015年4月から放送がスタートした「響け!ユーフォニアム」は近年の京都アニメーションを代表する作品で、京都府宇治市を舞台に、主人公の黄前久美子をはじめとする北宇治高校吹奏楽部員たちがぶつかり合いながら成長していくさまを、瑞々しいタッチで切り取っていく青春群像劇だ。これまでに2つのテレビシリーズと4作の映画が公開済みで、6月1日には続編となる「久美子3年生編」の制作が発表されていた。

「響け!ユーフォニアム」の高坂麗奈に扮した、夕霧さん(@yugirin_0511)
「響け!ユーフォニアム」の高坂麗奈に扮した、夕霧さん(@yugirin_0511)撮影/黒羽政士

11時半頃、中庭に長蛇の列を作った夕霧さんが披露してくれた高坂麗奈は、本作のもう一人の主人公といえるキャラクターで、真剣に部活動に取り組むあまり、自身はもとより周囲にも過剰なストイックさを要求してしまうという葛藤を抱えた役柄だ。

キャラクターについて、「アニメ放送の時からずっと好きです!」と語る夕霧さん。陽光が反射してキラキラと輝く小道具の、麗奈のトレードマークであるトランペットについて聞くと「前回麗奈をやった時に買いました。私自身は吹けないんですけどね」とはにかんだ。

「けいおん!」の平沢唯に扮した、YUKIさん(@yuki13061130)
「けいおん!」の平沢唯に扮した、YUKIさん(@yuki13061130)撮影/黒羽政士

「事件のあと、とにかく京アニのキャラクターにしようってだけ、決めていたんです」と語ってくれたYUKIさんは、今回がコミケ初参加だそう。この日彼女が選んだのは、今年放送開始10周年を迎えた「けいおん!」の主人公、平沢唯のコスプレ。カバンなどの小道具を再現することにこだわったのだという。ほかにも「氷菓」のヒロインの千反田える、「たまこまーけっと」の主人公の北白川たまこなどと迷ったとのことで、快晴に負けない笑顔で、大好きな京アニキャラクターたちへの思いを語ってくれた。

「日常」の大福の中之条マスコットキャラクターに扮した、大福くん(@daihukunakanojo)
「日常」の大福の中之条マスコットキャラクターに扮した、大福くん(@daihukunakanojo)撮影/黒羽政士

暑さがピークに達する14時頃、屋外のコスプレイヤーたちも次々と日陰に移動していくなか、西展示ホール横の屋上展示場に、ひと際目を引く参加者の姿があった。法被を着た巨大な大福が、2本の足で立って華麗にポーズを決めている。ご存じの方ならピンとくる、「日常」の隠れた人気者、「大福の中之条」のマスコットキャラクターである大福くんだ。同名のハンドルネームを持つ大福くんに話を聞くと、頭部の大福を少し持ち上げて、いきさつを話してくれた。

「『日常』が放送された2011年から大福をやっています。ほかのキャラクターのコスプレは経験がなかったんですが、テレビアニメで大福を見て、『アッ、これは自分がやらなきゃいけない!』と思って(笑)。それ以来ずっとやっている感じですね」とのことで、夏コミ、冬コミ問わず8年間、大福として立ち続けている。衣装の巨大な大福は、都内の自宅から毎回布団圧縮パックに詰めて持ち運んでいるそうだ。

今回の事件では、「日常」でキャラクターデザイン、総作画監督を務めた西屋太志をはじめとする、35人ものスタッフ、関係者が犠牲になり、いまなお幾人もが痛みや苦しみと闘っている。

大福くんは、一呼吸おいて、「どんな事件があっても、自分の好きなキャラを『好き!』と言ってコスプレをやり続けるのも、ファンの一つの姿かな、と思っています」とはっきりとした口調で話すと、我々に明るく挨拶を返し、35度以上の炎天下のなか、ふたたび大福として、完璧にアニメを再現したポージングで立ち続けた。

ほかにも、双葉社ブースでは「小林さんちのメイドラゴン」の各種グッズが、TBSアニメーションブースでは「けいおん!」の放送開始10周年グッズがそれぞれ人気を集めていた。

TBSアニメーションブースでは、「けいおん!」放送開始10周年グッズが販売されている
TBSアニメーションブースでは、「けいおん!」放送開始10周年グッズが販売されている撮影/黒羽政士

事件当時すでに公開中だった、「Free!」テレビアニメ第3期を再構築した『劇場版 Free!-Road to the World-夢』は、当初の上映予定を延長したにもかかわらず、劇場は多くの上映回で満員状態が続いている。また、9月6日(金)に公開される『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 - 永遠と自動手記人形 -』は、延期などの措置を取らずに上映されることが決まっており、関係者の話によれば、前売り券の販売も非常に好調だという。

また、7月24日に開設された支援金の預かり口座には、8日15時までに6万8000件あまり、18億9000万円を超える支援金が集まっている。こちらの宛先は、京都信用金庫南桃山支店「当座 0002890 株式会社京都アニメーション 代表取締役 八田英明」。

京アニ作品のファンであればあるほど、あまりにも凄惨な事件ゆえ、報道される無慈悲な現実から目を背けたくなった方も多かったことと思う。しかし、あれから3週間を経たコミケには、「作品を愛すること」しかできないと語り、それぞれの方法で想いを形にする参加者たちの姿が確かにあった。

Twitterなどのソーシャルメディアでは、事件の直後より、世界中でハッシュタグ「#PrayForKyoani」を付したツイートが投稿されており、京アニに対する祈りの声は途絶えることがない。

京都アニメーションの八田英明社長は、世界中から届けられるそれらの声について、「皆さんの想いは、今、暗闇に立ち向かっている私たちにとって、かけがえのない縁(よすが)です」と感謝を述べ、「手を差し伸べて下さる方々とともに、必死に戦っていきます」と力強く宣言している。

理不尽な暴力に屈しず、前に進もうとする京都アニメーションのために、「作品を愛すること」に立ち返るのも、我々にできる支援の一つの形だろう。きっと、その“祈り”が実を結ぶことを信じて。

「コミックマーケット96」は、あす12日(月・祝)まで東京国際展示場(東京ビッグサイト)で開催中だ。

取材・文/編集部

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