『天気の子』新海誠監督が明かす“賛否両論”映画を作ったワケ、“セカイ系”と言われることへの答え
社会現象を巻き起こした『君の名は。』(06)から3年ぶりとなる新海誠監督の最新作『天気の子』(公開中)が、観客動員440万人、興行収入60億円を突破する大ヒットを記録している。公開前に実施された製作報告会見で新海監督は「意見がわかれる映画になると思う」と語っていたが、いまその言葉通り、鑑賞後の人々の間で様々な意見が交わされている。超特大ヒットを果たした『君の名は。』の次に賛否両論の映画を世に送りだす覚悟を決めたのは、一体、どんな理由だったのか。また新海監督がネット上で多く見られる「『天気の子』はセカイ系」との意見について、どう感じているのか。胸の内を明かしてもらった。
※以下の記事は『天気の子』の物語の核心に触れる内容を含みます。鑑賞前の方はご注意ください。
天気の調和が狂っていく時代に、運命に翻弄される少年と少女が自らの生き方を選択していく姿を描く本作。東京にやって来た家出少年の帆高が出会った、不思議な力を持った少女、陽菜。2人の美しくもせつない恋物語を、圧倒的な風景描写と共につづる。
「この映画について『許せない』と感じる人もいると思いました」
『君の名は。』に続いて本作でも音楽を担当し、いまや新海監督とは“盟友”となったRADWIMPSの野田洋次郎は、『天気の子』の脚本を読んだ感想としてこんな言葉を口にしていた。「もうちょっとわかりやすくマスに向けた物語を描かれるのかと思ったら、すごく攻めていて新海節を発揮していた。賛否を巻き起こすだろうなというのが見えた。余計に僕は新海監督が好きになった」。
一体、なぜ賛否両論の映画を作るに思い至ったのか。新海監督は「この映画について『許せない』と感じる人もいるだろうと思いました。現実の世界に適用すると、主人公の帆高は社会の規範から外れてしまうわけです。弁護士の先生にもお話を聞いたんですが、法律で考えても、結構な重罪で…。帆高が空の上で叫ぶセリフも許せないし、感情移入できないという人もたくさんいると思います」と批判的な意見にも心を寄せ、「いまの社会って、正しくないことを主張しづらいですよね。帆高の叫ぶ言葉は、政治家が言ったり、SNSに書いたりしたとしたら、叩かれたり、炎上するようなことかもしれない。でもエンタテインメントだったら叫べるわけです。僕はそういうことがやりたかった」と語る。
さらに「『君の名は。』が公開された後にも、想像していなかったような批判やご意見をいろいろといただきました。でも誰かを怒らせてしまうような映画というのは、やはりどこか人の心を動かせる力のある映画だと思います。僕はそういった意見がとても大事だと思っていて。様々な声を聞くことが、怖くもあり、楽しみ」と期待を寄せる新海監督。“正しさを提示する映画”ではなく、「決して賛同はできないという人も、なぜか泣いてしまったという映画になればうれしいなと思いました。この映画は嫌いだという人も、決して損はしなかったと思えるもの。そこまで持っていける映画にしなければいけないと思いましたし、そのためには、なにを注げばいいのかとずっと考えていました」と“人の心を動かす映画”を目指したという。
大規模公開の作品だけに様々なタイアップ企画も展開されているが、賛否両論の映画を作るうえで、反対意見は上がらなかったのだろうか。新海監督は「意外かもしれませんが、皆さん好きで、この作品に乗ってくださっているんです」とニッコリ。「『公序良俗に反するものはできません』ということはなくて、『一緒にやりたいです』という意見が一致した方々。クライマックスがどうなるかもわかっていて、ご一緒してくださっている。『プロデューサーの都合でこうなった』『映画会社の都合でこうなった』なんて、業界の都市伝説としてはよく聞くんですが(笑)、少なくとも僕たちのチームはそういうことはなくて。『おもしろいものにしましょう』ということがすべての行動原理になっていたので、気遣いすることも特になかったです」。