『戦火の中へ』イ・ジェハン監督「キャラクター設定は最初から計算ずくです」
BIGBANGのT.O.Pことチェ・スンヒョン主演の戦争映画『戦火の中へ』(2月19日公開)で、来日したイ・ジェハン監督にインタビュー。これまで 『私の頭の中の消しゴム』(04)、『サヨナライツカ』(10)などのラブストーリーで名を馳せた監督が、初の戦争映画をどんなふうに演出したのか? 人間ドラマを映し出すこだわりについて聞いてみた。
朝鮮戦争に出兵した学徒兵オ・ジャンボム(チェ・スンヒョン)の手紙を題材にした本作では、強大な北朝鮮軍と果敢に戦った学徒兵たちの勇気や葛藤、自己犠牲のドラマがエモーショナルかつ骨太に描かれる。リアリティーにこだわり、2tの火薬を使ったという戦闘シーンでは、すさまじい爆発で人が吹っ飛び、粉塵が飛び交うという、まさに阿鼻叫喚の地獄絵図を映し出した。
本作を撮る前に、戦争について徹底的にリサーチを行ったというジェハン監督。「朝鮮戦争についてのドキュメンタリーを見たり、同時期にどういう戦争が他に起こっていたかなどを調べたりしました。ドキュメンタリーでは、戦後の話も入っていたし、戦争の見えてこない部分については想像して脚本に生かしました。また、僕の好きな戦争映画『プライベート・ライアン』(98)、『ブラックホーク・ダウン』(01)や、それ以外にも『アラビアのロレンス』(62)、『ワイルドバンチ 』(69)を見たりしました」。
韓国では今でも徴兵制度があるので、実際に兵役を経験した役者やスタッフの貢献度も高かったという。「軍のトラックの運転手をしていた人もいれば、大砲の撃ち方や、銃を分解してまた組み立てるやり方を知ってる人たちもいました。兵役経験者は、それぞれ役割分担をして役者陣にアドバイスをしてくれました。特にクォン・サンウは銃の撃ち方や構え方、姿勢などがすごく良くて。みんなに率先してアドバイスをしてくれましたね」。
また、北朝鮮軍少佐パク・ムランの威風堂堂としたカリスマ性あふれる立ち居振る舞いが見事だ。ムランの威圧感が強調されればされるほど、その分、ジャンボムら学徒兵たちの未熟さが際立っていく。これらのキャラクター設定にも、監督のこだわりが感じられる。「実は最初に監督のオファーをされた時、見せてもらったシナリオがあまり良くなくて。最初から書き直したんだよ」と言う。
特に、ムラン少佐が、学徒兵らが武装して待ち構える学校の校庭に、武器すら持たずに乗り込んでくるシーンが印象的だ。彼は学徒兵たちに銃を突きつけられても全く動じず、それどころか平然とブーツのほこりを振り払う。「しかも彼は、それを自分のスカーフで払うんです。余裕しゃくしゃくなんですよ。命が狙われていても全くたじろがない。それがムランだ。そういったキャラクター設定は、偶然生まれるものではなく、僕の作品の場合は、最初から全て計算ずくのものなんだ。意図して、きちんとキャラクターを描くことで、物語に深みが出るから」。
本作を撮り終えて、かなりの手応えを感じたという監督。「戦争映画はまた撮りたいと思います。でも、他のジャンル、たとえばアクションや犯罪映画、ミュージカル、ファンタジーもやってみたい。ただ、どんな映画を撮っても、大事なのは人間をどう描くかってことなんです」。
確かに、戦火に身を投じた学徒兵たちの壮絶な死闘に胸をえぐられるような気分になるのは、彼らと家族や仲間との絆がしっかりと背景に描かれているからだ。丁寧でダイナミックな演出にほれぼれさせられる『戦火の中へ』。戦争映画は苦手という食わず嫌いの女性陣や、若い世代にこそおすすめしたい映画である。【Movie Walker/ 山崎伸子】