世界へ羽ばたく『天気の子』、トロント国際映画祭で新海誠監督に突撃！「僕の意思でないものは入っていません」

――実は、このトロント国際映画祭に出品されている映画にも同じようなテーマを持った作品がいくつかありました。テレンス・マリック監督の『A Hidden Life(原題)』や、タイカ・ワイティティ監督の『ジョジョ・ラビット』などです。

「クリエイターのシンクロニシティは、同時代に生きているわけだから、起きて当然だと思うんですよ。みんながいまなんとなく気になっている、これを描かなきゃ、ということを同時代に同じようなことを考えている人たちが同時に作って、それが各地に出てきてたまたま同じ表現となる。当然のことのような気がします。2016年に『君の名は。』を作った時、あれは震災からインスパイアされたモチーフがあったんですが、同時期に同様のモチーフを扱った『シン・ゴジラ』が公開されました。同じ時代に生きて同じ出来事にショックを受け、それを自分の中のエンタテインメントとして消化するまでにかかる時間は、同じ人間なのであまり違わないんだろうなと思います。それは、外から見たら大きな文化の流れになっているように見えるかもしれないですね」

――日本は今年長梅雨でしたが、完全なる偶然ですよね。新海監督はそういうものを引き寄せる運の持ち主なのでしょうか？

「いやいや(笑)。周りの人は『すごいプロモーションだよね。この長雨も壮大なプロモーションだ』とか『「天気の子」ってなにか持ってるよね』と言ってくれたりはしましたが(笑)。雨が続くことはいまの気候変動、温暖化のなかでは必然なわけですよ。夏がさらに暑くなって、暑くなると空気中の水蒸気の含有量が増えるから雨が増える。今後、日本で雨が増えていくというのはわかっていることだったけれど、2019年の梅雨が長梅雨になるかどうかは3年前にはわからない。天気予報の精度は上がってきていますが、近未来は予測できないわけです。長梅雨になることはわからないけれど、雨が多くなることはわかっていた。だからこそ雨が止まない映画を夏前に公開して、雨の多い時期に観てほしいと考えて作りました」

――新海監督は、どういう時に“映画”の種を見つけるのでしょうか。

「僕は天啓とかインスピレーションを突然授かるタイプではなくて。とにかく考えて考えて、100も200もアイデアを出して、これだけの材料があって、この中の4つか5つは映画になり得る。これとこれを合わせれば、映画になるんじゃないかという思いでようやく最初のプロットの核ができるので、考えるしかないんですよ。そういったネタをパソコンにメモしたりしています。今年の夏は久しぶりに実家に帰ったんですが、子どもたちが揃ってみんなで遊ぶわけですよね。夜に花火をやったんですけど、子どもがはしゃいで花火をやるからあっという間になくなってしまう。『もう花火はないけれどもっと遊びたい』と言うので、シャボン玉を持ちだして吹いたんです。そうすると、真っ暗な夜にシャボン玉が月明かりでキラキラ光って…。そういう時に、花火ができなくてシャボン玉を飛ばすシーンはもしかしたら映画のシーンになり得るのかなとは思います。ただ、それだけだと印象的なワンシーンにしかならない。そういう日々感じた、これは物語のネタになるかもしれないと感じたことはメモを取るようにしています。それが膨大に積み重ならないと実際に映画にはならないですからね」

――ビジュアルが思い浮かぶことが多いんですか？

「いまの例はビジュアルですけれど、文字から入ることが多いです。小説を読んだり、漫画を読んだりしていて印象に残ったフレーズは、同じように書き留めています。文字からの発想のほうが多いんじゃないかな。その1行があるから映画になるというわけではなくて、それもいっぱいないと映画にはならないですけどね」

現在も記録的大ヒットを続ける『天気の子』は、その反響を受けて4D版の上映も決定。先日は新たなビジュアル“祈りポスター”が解禁された。世界中を巻き込む新海誠旋風は、まだまだ収まりそうにない。

取材・文/平井伊都子