歴史的名作なのにアメリカと日本で酷評…!?タランティーノにも影響を与えた“伝説的”西部劇の不遇すぎる過去
ヨーロッパを中心に高い評価を得てきた西部劇巨編『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト』(68)が、現在公開中だ。本作はヒロインであるジルの視点を通じて、移り変わる時代と共に凋落していくガンマンたちの姿を、従来の西部劇にはなかった重厚な演出で活写した一大叙事詩。1969年に約25分カットの短縮版が公開されて以来、上映時間2時間45分のオリジナル版で日本のスクリーンに甦った本作だが、初公開当時は、あまりファンから受け入れられなかったという不遇の過去を持っているのをご存じだろうか?
ベルトルッチも参加!西部劇の巨匠が挑んだ新たなマカロニ・ウエスタン
この超大作でメガホンを取ったのは、没後も多くの映画監督から尊敬を集めるイタリアの巨匠、セルジオ・レオーネ。クリント・イーストウッドを主演に迎えた『荒野の用心棒』(64)、『夕陽のガンマン』(66)、『続・夕陽のガンマン/地獄の決斗』(67)の通称“ドル箱3部作”を手掛けた彼は、イタリア製西部劇、いわゆる“マカロニ・ウエスタン”の人気を確立した。痛快なアクションを追求し全世界でブームを巻き起こした一方で、西部劇というジャンルにマンネリを感じていたレオーネ。そんな時、配給会社からの「もう一本だけ西部劇を」という強い要望や、過去最大級の製作費と敬愛する俳優のヘンリー・フォンダの出演によって気持ちを動かされ、本作の制作を決意したという経緯がある。
西部劇への思いや憧れを反映させたドラマ性の高いストーリーを展開させようと考えたレオーネは、娯楽を意識したドル箱3部作の作風から大きく方向性を変更。それまで組んできた脚本家を一新し、映画評論家だったダリオ・アルジェント、無名時代の故ベルナルド・ベルトルッチらを共同原案として迎えている。2人は途中で離脱するが、本作をヒロインの視点を通して、アメリカ大陸の文明の進歩とそれによって失われるロマンやガンマンたちの姿を“滅びゆく世界への挽歌”として描くことに成功した。
ヨーロッパで大ヒットするも、アメリカで惨敗!その理由とは?
68年12月にイタリアで公開されるとその年の興収3位を記録。続いて、フランスでも驚異的なロングランヒットとなり、現在も歴代動員のトップ10内に留まっている。しかし、アメリカではレオーネ監督の意図が理解されず、オリジナル版から20分カットされたバージョンが公開され、興行的に惨敗。『ウエスタン』の邦題で公開された日本では、上映時間が2時間21分とアメリカ公開版からさらにシーンが削られ、興行的には成功するが、レオーネの新しい作風はファンには理解されず不評を買ってしまい、後のレオーネ作品『夕陽のギャングたち』(71)の興行的大敗につながってしまう。
しかし、これらの不名誉な評価は徐々に覆り、81年に世界初のマカロニ・ウエスタンの研究書が発行されると、レオーネの再評価の機運が世界的に高まっていく。スタンリー・キューブリック、ジョージ・ルーカス、マーティン・スコセッシといった巨匠が本作を讃えているのに加え、観客として本作を観たクエンティン・タランティーノもレオーネ作品をはじめマカロニ・ウエスタンを大絶賛。後に、「『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト』を観て映画監督になろうと思った。この作品自体が自分にとっての映画学校だった」とコメントしたほか、現在公開中の彼の最新作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(19)の題名に本作を引用したとも言われている。
レオーネ監督の没後30年、そして『ウエスタン』の日本公開から50年となる今年、ついにオリジナル版が公開される『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト』。不遇な歴史を持ちながらも、多くの映画監督を魅了した伝説的傑作を、ぜひスクリーンで堪能してほしい!
文/トライワークス