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『二ノ国』日野晃博が『HELLO WORLD』伊藤智彦監督と語った、アニメ制作にかける想い

インタビュー

『二ノ国』日野晃博が『HELLO WORLD』伊藤智彦監督と語った、アニメ制作にかける想い

「作品づくりでは、パワーをかける『ポイント』がいくつかある」(伊藤)

「作品にいくつかポイントを作る」と明かす伊藤
「作品にいくつかポイントを作る」と明かす伊藤

──伊藤さんは『二ノ国』をご覧になっていかがでしたか?

伊藤「ゲーム『二ノ国』の開発時に、ゲーム中のアニメシーンが作られているのを偶然職場で見かけて『これは本当にゲーム用のアニメなの?クオリティが高すぎる!』と驚いたのを覚えています。今回の劇場版でもクオリティが健在で、その時から10年を経て、日本アニメ界に(スタジオ)ジブリを復活させた、という印象でした」

日野「ジブリはアニメ界の金字塔のような存在ですが、当時印象的だったのは、僕がアニメにしたい派手なシーンを指定すると、鈴木敏夫プロデューサーが『ジブリの得意技はスペクタクル的なシーンよりも“生活芝居”だ』とおっしゃって。例えば、お父さんが壁にかけてある背広を手に取って、袖を通す。アニメなら『省きたくなる』動きを表現しきるのがジブリ。そこをアニメにさせてほしいと言われて。当時は『それだとPVにしにくいな』とも思ったけど(笑)、おっしゃることはすごくよくわかりました。だから今回の劇場版でも、車いすのユウが足をベッドに乗せる動きもあえて省かずに丁寧に表現しました」

車椅子での日常動作も省かずに丁寧に表現
車椅子での日常動作も省かずに丁寧に表現[c] 2019 映画「二ノ国」製作委員会

伊藤「僕はアニメーター出身ではないので、実は自分で絵を描けないんですよ。だから、なるべく手間をかけなくていいように作るスタイルなんです。リソースの問題でどうしても人手がとれないときには、 “描かずにすむ”ような演出にすることも多くて、手間のかかる車椅子描写は避けます(汗)。なので、作品にいくつかポイントを作って、そこに全力をかけて『ここだけは100点の出来にしよう!』という作戦をとっているんです(笑)」

日野「その考え方も大事ですよね。時間やパワーは有限だし、効率を考えながら作るテクニックみたいなものもやっぱり必要だと思います。『HELLO WORLD』を見ていてもどんどん引き込まれてラストまで止まらなかったので、エンタテインメントとしてのセオリーにのっとって、しっかり作りこまれているんだなと感じました」

──アニメとゲームでは、それぞれ制作スタイルに違いはありますか?

日野「アニメはゲームよりもテンポをよくするように気をつけていますね。ゲームは長時間楽しんでほしいので、例えば10の要素を1つずつ明かしながら進めていくような構成にしますし、説明もとても丁寧にします。でもアニメでそれをやってしまうと冗長になるので、いかに短いセリフや絵だけで表現できるかに意識を向けます」

伊藤「ゲームはリリースまでにトライ&エラーをすごくしますよね。アニメは反対に、コンテが終わってしまうとやり直しをしない文化があって…」

日野「その文化の違い、ありますね!」

伊藤「僕はどちらかというと、監督のコンテに対してスタッフが好き勝手言ってもいいと思っているんです。それで作品がよくなるなら、どんどん変えていきたい」

日野「ゲームはCGだから『違うな』と思ったらカメラのアングルを変えたりしてやり直しができるけど、例えば手書きのアニメだと描き直しになるわけですよね。それだけにその『1回』にかける集中力の質は全然違うんだろうなと思っています」

「映画館に行くという体験を、作り手としてもプロデュースしたい」(日野)

「映画館に行くという体験を、作り手としてもプロデュースしたい」と言う日野
「映画館に行くという体験を、作り手としてもプロデュースしたい」と言う日野

──近年は劇場版アニメ作品がどんどん公開されていますが、これから日本のアニメシーンはどうなっていくと思いますか?

伊藤「ハイティーン向けはどんどん増えるだろうなと思っています。一方で、テレビアニメの劇場版も残っていくと考えていて、よりコア向けの作品と、いわゆる一般向け作品の違いがはっきりしていくんじゃないかなと…。それから、子ども向けアニメというゾーンがどうなっていくのかにも興味があります。そこに、日野さんの次の挑戦があるのではと楽しみにしています。」」

日野「僕は、映画館という場がアミューズメント化しているなと感じています。映画作品自体はネット配信も増えていますし、わざわざ映画館に行かなくても見られる時代。それでも映画館に行くのは、誰かと一緒に、または一人で、映画館という場所で特別な時間を過ごすためですよね。だから映画はその体験に価値を与えなければならないんです。例えばデートで行くなら、恋愛ものはマストでしょうし、いくらおもしろくてもマニアックなものは家で観るでしょう。作り手としても、誰が見るのかは、より意識していく必要があります」

伊藤「子どもにとって、映画館で映画を観るのってやっぱり特別なことなんですよね」

日野「そうですよね。僕たちがずっと作っている年末の『妖怪ウォッチ』シリーズも家族で観てもらうことが多いので、子どもたちはもちろん保護者の方にも楽しんでもらえる工夫をしていく必要があって。ゲームと同じで、誰が見るのか、届ける先を考えながら作っています。いろんな企業が参入してきたことでアニメーターが不足しているのは大きな問題ですけどね(笑)」

伊藤「本当に(笑)」

日野「でも、一時期は3DCGに埋もれてしまうかもと思っていた2Dアニメもヒット作に恵まれて生き残っていますし、人気作がたくさん生まれるのはいいことだなって。アニメはまだまだ多様化しながらやれることがあると思うんです。クリエイターとしても頑張っていきたいですし、伊藤さんの次回作も楽しみですね」

伊藤「ありがたいです。僕は最近はゲームをほとんどやらなくなってしまったんですが…」

日野「いまは優秀なクリエイターもたくさんいて、別メディアのクリエイターにとっても刺激になると思いますよ。ぜひいろいろプレイしてみてほしいです」

ゲームとアニメ、それぞれの文化の違いについて熱い議論が交わされた
ゲームとアニメ、それぞれの文化の違いについて熱い議論が交わされた [c] 2019 映画「二ノ国」製作委員会

タイプが異なるクリエイターでありながらも、お互いの作品や姿勢を尊重しあう言葉のやりとりが印象的だった2ショット対談。2人の今後の活動にも、引き続き注目したい!

取材・文/藤堂真衣



アニメーション大作『二ノ国』の魅力を徹底解剖!

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