どれを買う?チケット発売直前、映画ライターが第32回東京国際映画祭で推す映画はこれだ!
10月28日(月)~11月5日(火)にかけて開催される「第32回東京国際映画祭」(TIFF)。12日(土)からは、いよいよ一般チケットが発売に。毎年、各国の映画祭で絶賛されてきた話題作から、アジア・ヨーロッパのインデペンデント系まで、バラエティ豊かな多数の作品が集まる本映画祭。そこで、今年のTIFFはどこに注目すればいいのか、国内外の映画界に精通している映画ライター2人に推しポイントを語ってもらった。
アカデミー賞に絡みそうな傑作に注目!(映画ライター・斉藤博昭)
山田洋次、周防正行。白石和彌といった日本映画を代表する監督の新作が並ぶ「特別招待作品」だが、注目してほしいのは、アカデミー賞に絡みそうな傑作。巨匠マーティン・スコセッシの最高傑作と評判の『アイリッシュマン』はNetflix作品なので、ぜひこの機会に大スクリーンで堪能したい。同じくNetflixの『マリッジ・ストーリー』も夫婦の離婚劇でスカーレット・ヨハンソン、アダム・ドライバーがキャリア最高の熱演を見せ、年末からの賞レースに加わりそう。Netflixの勢いを知る意味でも重要だ。そしてトロント国際映画祭観客賞の『ジョジョ・ラビット』も戦争をユーモアと感動で描き、アカデミー賞で作品賞候補は確実の気配。まっすぐな感動という点では、実話の映画化『フォードvsフェラーリ』もオススメだ。
毎年、世界各国の作り手の強烈な独創性を感じ取れるのが、「ワールド・フォーカス」。すでに他の映画祭で評判を呼んだ作品も多いなか、今年、圧倒的なインパクトを放つのが『ペインテッド・バード』だ。ヴェネチア国際映画祭のコンペティションに入るも賛否両論。その後のトロント国際映画祭でも、あまりの衝撃に途中退場者がいた、文字どおりの「問題作」。戦争下の東ヨーロッパを一人の少年がさまよう物語だが、行く先々で起こる災いが目を疑うほどショッキングな映像で描かれる。今後、日本で劇場公開されるとしたら、表現のモラルも論じられる可能性があり、その意味で必見の一作である。
大林宣彦監督の名作が並ぶ今年の「Japan Now」は、その偉大な功績をたどるチャンスであると同時に、病と闘いながら渾身の思いで完成させた『海辺の映画館−キネマの玉手箱』から、監督の強烈なメッセージを受け止めたい。さらにJapan Nowでは、世界の映画祭で喝采を浴びた日本映画もあるので、同じように映画祭の場で「体験」したい。サンダンス映画祭などで受賞の『WE ARE LITTLE ZOMBIES』は斬新な映像感覚が持ち味。脳性麻痺の女性を主演に、映画で描くには難しい領域にも踏み込み、予想外のエモーショナルな結末へたどりつく『37セカンズ』も、ベルリン国際映画祭などで受賞。劇場公開は来年なので、イチ早く観られる機会を逃さないで!
未知なる映画たちを自ら“採点”するのも一興!(映画ライター・高橋諭治)
国際映画祭のメイン部門に位置づけられる「コンペティション」。本映画祭では例年、ハードコアなアート映画ばかりではなく、作家性と娯楽性が独自のバランスで入り混じった作品を数多く選出しており、今年もその傾向は受け継がれている模様だ。まず目を引くのは、警察と麻薬組織の対決を描くクライム映画『ジャスト 6.5』だ。コンペらしからぬこの題材で、しかもイラン映画となると、公式解説文の「すべてが規格外の迫力」という触れ込みを自分の目で確かめずにいられない。同じくアジア作品ではフィリピンの女性スナイパーもの『マニャニータ』に好奇心をそそられるし、カルト宗教×青春のノルウェー映画『ディスコ』も興味津々。フレンチの鬼才ドミニク・モルの新作『動物だけが知っている』、スペインの新人監督が放つ『列車旅行のすすめ』は、どちらも多ジャンルの要素を内包し、映画ならではの“物語”のおもしろさを堪能させてくれそう。多様な国、地域から集まった全14作品には当たり外れもあろうが、未知なる映画たちを自ら“採点”するのも一興だ。
かねてからアジア各国のインディペンデント映画の紹介に注力している本映画祭。今年は「アジアの未来」「CROSSCUT ASIA」の2つの部門に、なぜかホラー&スリラー系の新作が大集結している。ラオスの女性監督が手がけたSFホラー『永遠の散歩』、悪魔に翻弄されるあどけない姉妹の闘いを描くタイ映画『Sisters』のほか、フィリピン、インドネシア、ベトナムといった東南アジア産の作品がずらり。欧米や日本のそれとは異質のエキゾチズムとユニークな作風に彩られた衝撃作、怪作を発見したい。ホラー映画ではないが、特異な法制度を題材にした『50人の宣誓』、45年も死者が出ない村の物語『死神の来ない村』というイラン映画2作品も気になる!
まだ日本公開が決まっていない世界中の良作を集めた「ワールド・フォーカス」も、本映画祭の人気部門だ。奇妙な出来事が相次ぐ過疎の町を舞台にしたカナダ映画『ゴーストタウン・アンソロジー』、チェコなど東欧3ヵ国合作による少年のサバイバル劇『ペインテッド・バード』といった“謎めく”映画の中身を確かめたい。『ファイヤー・ウィル・カム』『戦争のさなかで』というラテンビート映画祭とのコラボ作品にも注目。とりわけ『オープン・ユア・アイズ』(97)『アザーズ』(01)のアレハンドロ・アメナーバル監督がスペイン内戦を背景に撮った歴史ドラマである後者は必見か。また、ティーン&チルドレン向けということで見落とされがちな「ユース」部門には、毎年優れた青春&ヒューマン・ドラマが出品されている。スウェーデン人とロマの少女2人の友情劇『約束の地のかなた』などを抜かりなくチェックしておきたい。
構成/トライワークス