『ばるぼら』手塚眞監督、父との共通項は“エロティックさ”稲垣吾郎&二階堂ふみの化学反応とは?
いよいよ10月28日(月)より開幕となる第32回東京国際映画祭。世界各国の新作がグランプリを競うコンペティション部門に、日本から手塚眞監督の『ばるぼら』と足立紳監督の『喜劇 愛妻物語』の2作品が選出された。『ばるぼら』は、手塚治虫が様々なタブーに挑んだ問題作を実子である手塚眞監督が実写化する意欲作。手塚監督を直撃し、コンペティション部門に選出されたことへの想いや、主演の稲垣吾郎、二階堂ふみへ寄せる信頼感を教えてもらった。
「3度目の正直。コンペに選出していただいて驚いたし、うれしかった」
手塚監督が東京国際映画祭に参加するのは、招待作品となった『ブラック・キス』(06)、『星くず兄弟の新たな伝説』(18)に続いて3回目のこと。コンペティション部門に初選出され、「3度目の正直と言いましょうか(笑)。自分の作品はカルトっぽいものも多いので、コンペ向きではないのかなと思っていたんです。選出していただいて、驚きました」とニッコリ。観客とのトークセッションも楽しみだといい、「映画祭にいらっしゃる方々は、必ず過去の作品に触れながら新作についての話を聞いてくださる。それは監督としてはとてもうれしいことです」と喜びをにじませる。
自身のターニングポイントは、『白痴』(99)でヴェネチア国際映画祭に招待されたことだという手塚監督。映画祭は「“映画”というひとつの世界に飛び込める場所。高みにあるような映画もインディーズ映画も、一緒に交流できる場所」だと話すが、東京国際映画祭にはこんな期待を寄せる。
「東京ならではの映画祭になってほしいと思っています。東京国際映画祭ならではの視点で作品を選んでいる。かねてより、そんな姿勢がある映画祭になっていくといいなあと思っていました。今年のラインナップを見ていますと、巨匠の作品もあれば、インディーズの作品も控えていたり、私の作品もコンペに入っていたりと、意外性やバラエティに富んでいる気がします。すごくおもしろい映画祭になってきているのではないでしょうか。先日のラインナップ会見では山田洋次監督とご一緒させていただいて。山田監督とは作品の傾向が真逆のもののような感じもしますので、隣に並ばせていただいたことが不思議でもあり、とても光栄で。久しぶりにお会いしたんですが、父の思い出話も伺うことができて、本当にうれしかったです」。
また今年の東京国際映画祭が一層、アニメーションの部門化にも力を入れていることにも触れ、「いま、日本のアニメ業界は大変活気があります。ただその活気に甘んじてはいけないとも思っています。宮崎駿監督という大巨匠がいて、細田守監督など新しい才能も出てきていますが、まだまだ人材が足りない。もっと人材が出てくるといいなと期待していますし、せっかくアニメ大国と言われるほどになっているので、よりバラエティに富んだ作品があってもいいと思っています」とアニメ業界のさらなる発展も願っていた。
「父、手塚治虫との共通する部分は、“エロティックさ”」
『ばるぼら』は、手塚治虫が禁断の愛とミステリー、芸術とエロス、スキャンダルやオカルティズムなど様々なタブーに挑み、その独特な世界観から“映像化不可能”と言われた原作を、初めて映画化するもの。“ばるぼら”という名の謎の少女に翻弄される小説家、美倉の奇怪な体験を描く物語だ。「父親の原作で、実写の映画を作るのは初めて」という手塚監督だが、原作には特別な思い入れがあるという。
「原作は連載当時、小学生のころから読んでいました。子どもの自分にはよくわからないところもあるけれど、そこがおもしろいなと思っていた。そして年を経るごとに読み返してもやっぱり、おもしろいなと」と惚れ惚れ。「僕が思うに、手塚治虫の大人向けの漫画というのは、手塚治虫なりに背伸びをして考えているようなところがあると思っていて。『自分が描いたことのない世界を描いてみよう』というチャレンジが込められている。そこが非常にスリリングなんですよね。一方でエロティックな部分については、“考えて描いている”というのではなく、本当に自分の心の奥底にある感覚を駆使して描いているような気がする。だからこそ絵自体にも上品さだけでなく、色気も感じられる。『ばるぼら』は、そういった不思議な味わいが、いい形でミックスされている漫画だと思います」。
さらに、自身の監督としての感性とも見事に合致する作品だと続ける。「『ばるぼら』には、自分が監督として表現してきたものと、父親の作品との接点が感じられた。父と僕の作品でもっとも共通していると感じる部分は、エロティックな部分でしょうか」と微笑み、「僕がこれまでやってきたことを存分に込められる作品。とてもやりがいのある作品ですし、自分が『ばるぼら』を演出したらどうなるんだろうと、自分自身への興味も湧いてきました」と前のめりの姿勢を告白していた。