『ひとよ』佐藤健「器用な役者ではなく、魂で乗り切るしかないタイプ」

インタビュー

『ひとよ』佐藤健「器用な役者ではなく、魂で乗り切るしかないタイプ」

『ひとよ』で主演を務めた佐藤健
『ひとよ』で主演を務めた佐藤健

『孤狼の血』(18)の白石和彌監督が、初めて家族の絆を真っ向から描いたヒューマンドラマ『ひとよ』(11月8日公開)で、主演を務めた佐藤健。ある事件をきっかけにやさぐれた次男、稲村雄二役を演じた佐藤は、無精髭をたくわえ、けだるい印象を与える。役作りについて佐藤に聞くと「なにも作り込まず、フラットなまま臨んだ」と、敢えて「るろうに剣心」シリーズなどとは真逆のアプローチを取ったそうだ。

本作は、タイトル『ひとよ』のとおり、たった一夜の出来事で、人生を狂わされた家族の葛藤と再生を描く物語。15年前、子どもたちを守るために殺人事件を起こした母親、稲村こはる役を田中裕子が、兄妹で唯一の既婚者である長男の大樹役を鈴木亮平が、スナックで働く長女の園子役を松岡茉優が演じた。

「脚本の理解度は30%くらいのまま現場に入りました」

「ダサい姿やカッコ悪い姿を見せたくない」と言う佐藤健
「ダサい姿やカッコ悪い姿を見せたくない」と言う佐藤健

役作りをしなかったとはいえ、佐藤は白石組に入るにあたり、体重を増やして、普段は吸わないタバコを吸った。それは「身体を汚して現場に入りたかった」という理由からだが、ある意味、別の気合も感じられる。アクション映画の撮影前は、肉体改造に余念がなかった佐藤だが、“だらしない身体”を作ることについては「まったく抵抗はなく、むしろ快感だったくらいです」と言う。「いま、『汚れ役をやれ』と言われたら抵抗があるかもしれないけど、『ひとよ』は、ちょうどいいタイミングでオファーをいただけたから良かったです」。

また、「脚本の理解度は30%くらいのまま現場に入りました。度合いは違うけど、ここまで極端になにも用意せずに入ったのは初めてでした」という言葉も、ストイックなパブリックイメージがある佐藤が発したものとは思えない。

「雄二がどういうテンションで台詞を言うのかは、現場に行ってみないとわからなかったです。そういう前提で撮影に入ったので、不安というか『これで大丈夫かな?』と、常に思っていました。ただ、それは白石組だからこそできたことで、ほかの組では通用しないことだとも思っています」。

稲村家の母・こはる(田中裕子)は最愛の子どもたち三兄妹の幸せのため、愛した夫を手にかけた
稲村家の母・こはる(田中裕子)は最愛の子どもたち三兄妹の幸せのため、愛した夫を手にかけた[c]2019「ひとよ」製作委員会

稲村家の柱となったのが、ベテラン女優の田中裕子だ。事件を起こしてから15年後、突然、自宅に戻って来たこはる。佐藤は、田中について「最初の挨拶時は、かわいらしい方という印象でしたが、撮影が終わると、自分のスペースにさっと戻っていかれる方でした。芝居の面ではすごくこだわりを持っていて、白石監督にも自分の意見を言われたり、監督とディスカッションされたりしていました」と語る。

田中との共演シーンはどれも印象に残っていると言う佐藤。ただ、現場で田中のコミカルな演技を見た時、佐藤は意外に思ったそうだ。「常にシリアスなわけじゃなくて、コメディのような演技を選択されているんだなと思う瞬間が多かったので、僕も含め、皆が現場でびっくりしました。受け答えなどで、おもしろい肝っ玉母ちゃんみたいなところもあったので」。

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