“それ”の恐怖の本質とは?アンディ・ムスキエティ×ヒグチユウコ『IT/イット THE END』特別対談

インタビュー

“それ”の恐怖の本質とは?アンディ・ムスキエティ×ヒグチユウコ『IT/イット THE END』特別対談

怖いもの大好きクリエイター2名の、日米対談が実現!
怖いもの大好きクリエイター2名の、日米対談が実現!

稀代のホラー作家であるスティーヴン・キングの名作小説を映画化し、全世界興行収入7億ドルを超えるヒットを記録した『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』(17)。クラスのイケてない少年少女たちのグループ“ルーザーズ・クラブ”を襲うのは、“それ”と呼ばれる子どもたちのトラウマや闇の中に巣食うピエロの姿をしたモンスター、ペニーワイズ。その圧倒的存在感と恐怖は多くの観客を魅了した。

“それ”の恐怖の本質とは?
“それ”の恐怖の本質とは?[c] 2019 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

ホラー作品好きとして知られる画家のヒグチユウコさんもペニーワイズの最恐っぷりの虜になった一人だ。前作の27年後、大人になった“ルーザーズ”たちが再びペニーワイズと対峙する完結編『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』(公開中)も、「ペニーワイズのすべての登場シーンが美しい、見事だった!」と絶賛する。今回、プロモーションのため来日したアンディ・ムスキエティ監督との貴重な対談が実現した。ホラー表現にもっとも大切なことはなにか、2人の恐怖への意外な共通点が見つかった。

「本作の恐怖の本質は、人間が抱えるトラウマや心の闇にある」(ヒグチ)

ムスキエティ監督の演出は、子どもたちのトラウマを丹念に描写してゆく
ムスキエティ監督の演出は、子どもたちのトラウマを丹念に描写してゆく[c] 2019 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

――ヒグチユウコさんは前作をご覧になった時も、ペニーワイズの絵を描かれていて、それをご自身の展示会でも披露されていました。今回も完結編の公開にあわせてアートワークを手掛けているんですよね。

ヒグチユウコ(以下ヒグチ)「これです。今日は原画をもってきました。いちばん最後にペニーワイズの心臓から流れる血の赤を描いたんですが、赤色が乾く前が生々しく、もっともキレイでした」

アンディ・ムスキエティ(以下アンディ)「いや、充分すばらしいです。ペニーワイズの目をきちんと捉えているのに驚きました。感動的です」

ヒグチさんの画集を「すばらしい!」と眺めるムスキエティ監督
ヒグチさんの画集を「すばらしい!」と眺めるムスキエティ監督

ヒグチ「いま、新作を拝見して原作をまた読み直しています。最初に原作を読んだのは、子供時代ですから改めて読むとこんな場面があったのか、とか、ここは読み込めていなかった、理解できてなかったなと気づくところが多いです。大人になって読み直してみて気づいたのは、ムスキエティ監督は本作のすごく大事なところ、恐怖の本質を見事に掬って映画にされているということです。それは、それぞれの子どもたちの恐怖そのものなんですけれど」

アンディ「そうですね」

ヒグチ「もちろん、ペニーワイズのデザインや登場の演出、クリーチャーの表現もさすがに現代的で見事なんですけれど、私はホラー映画を観すぎていて、もうそういうものはまったく怖くないので(笑)」

アンディ「わかります。僕も同じですよ」

ヒグチ「血がどんなに出ようが、何者かが壁を這おうが、井戸から出こようが、私は可笑しいだけ。お化け的なショッキングな恐怖より、人間が抱えるトラウマや心の闇のほうがよほど恐ろしい。本作でも、そういったものが起因となり、それぞれの恐怖がビジュアルとして浮かび上がる表現がとても良かった。前作だと、私はスタンリーにとても共感したんです」

トラウマの象徴ともいえるジョージィの船
トラウマの象徴ともいえるジョージィの船

アンディ「(アメデオ・)モディリアーニの絵ですか?」

ヒグチ「そう!それです。スタンリーは父の書斎に飾ってある女性の肖像画を恐れています。あれは、まさに私のことです。小さいころに家にあったモディリアーニの画集が怖くてしょうがなかった。いつも、表紙を裏返しにして置いていた。そのことを思い出して身震いしたんです。絵がそこにあること、その存在を意識してしまうことこそが恐ろしいんです」

アンディ「まったく一緒です。スタンリーのエピソードは僕のパーソナルな思い出なんです。顔が長く、空洞のような白くうつろな瞳。子どものころの僕には、化け物にしかみえなかった」

ヒグチ「モディリアーニは美女を描いているつもりなんですけれどね」

アンディ「でも、僕には恐怖の対象でしかなかった。子どもにはわからないからね」

ヒグチ「監督の過去の作品『MAMA』にもモディリアーニの絵がモチーフになったキャラクターが出てきますよね。私も大ファンのホラー漫画家で伊藤潤二さんという方がいます。彼が描く“淵さん”というキャラクターにもよく似ているんですよ。ご存知でしたか?」

アンディ「伊藤潤二さんの作品は知らなかったです!これは英訳版もあるんですか?……買って帰らないと」

ヒグチ「ぜひ、おすすめします!」

<人間ドラマ編>
<自己責任編>
<完結編>

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