“それ”の恐怖の本質とは?アンディ・ムスキエティ×ヒグチユウコ『IT/イット THE END』特別対談

インタビュー

“それ”の恐怖の本質とは?アンディ・ムスキエティ×ヒグチユウコ『IT/イット THE END』特別対談

「ホラーとユーモアは表裏一体。楽しみでないといけないんです」(ムスキエティ)

ベバリーのトラウマシーンは本作最大の見せ場ともいえる仕上がり
ベバリーのトラウマシーンは本作最大の見せ場ともいえる仕上がり[c] 2019 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

——ヒグチさんが『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』でもっとも怖いと感じたシーンはどこでしたか?

ヒグチ「ベバリーが街に戻ってきて、疎遠だった父とかつて暮らしていたアパートメントを訪れる場面です。父はもう亡くなり、その部屋には一人の老女が暮らしている。彼女が扉をあけた瞬間に、奇妙なものが流れる。もうこれは尋常じゃない。なにかあるとわかる。そういうところに、胸がいっぱいになりました」

アンディ「そのシーンは僕も気に入っているところです。ゆっくりゆっくり積み上げていく恐怖のひとつですよね。平穏なシーンでありながら、違和感がある。それが徐々にサスペンスを盛り上げてくれるんです」

ヒグチ「お約束というのか。ベバリーが気づかない後ろにちょっと老女が出てくるのとか、おかしくて。廊下の奥のほうでなにかあるぞ、あるぞ、と。そのワクワク、ドキドキがたまらなかったです」

劇中のプロップを手におどけるムスキエティ監督
劇中のプロップを手におどけるムスキエティ監督

アンディ「ホラーとユーモアは表裏一体なんですよね。来るぞ来るぞという期待がある。ホラーは楽しみでないといけないんです。80年代には、良質なホラーコメディがたくさんありました。『フライトナイト』とか『ニア・ダーク/月夜の出来事』とかね。そういうものが僕のホラー観の大きな基礎となっています」

ヒグチ「わかります。ペニーワイズもそうですね。恐怖の対象であるんですがユーモアがきちんとある。本作では、登場シーンがどれも素晴らしいですから。これから観る方はぜひ注目してほしい。空を飛んでいるシーンとか、ピエロらしさがありながら、でも、普通じゃない。ますます好きになりました」

アンディ「どうもありがとう」

ヒグチ「衣装もとても素敵ですよね。ティム・カリーが演じたテレビ版『IT』のペニーワイズの衣装もとても好きなんですが、本作のビジュアルもとても気に入っています。ネタバレになってしまうので詳しくは言えませんが、ラストシーンのペニーワイズがとてもよかった。細かなところまでピエロの衣装のフリルがあって。ああ、なんてかわいらしいのかしら、と思いました」

アンディ「ペニーワイズらしい気持ち悪さとはなんなのか追求したので、そう言っていただけてうれしいです」

ヒグチさんの胸元には、ティム・カリー版のペニーワイズがチラリ
ヒグチさんの胸元には、ティム・カリー版のペニーワイズがチラリ

ヒグチ「最終形態で、全然違うものになってしまったらどうしようと思ったんです。でも、想像を裏切る素敵なビジュアルでした」

アンディ「すごく奇妙でシュールなものにしたかったんです。ハリウッド映画的な発想で、大きくてただ強いモンスターになったところでつまらない。もっとグロテスクで、おかしなもの、だから恐怖を煽るものとなる要素が必要だった。でも、ユウコさんは怖くはなかった?」

ヒグチ「……怖くはないですね(笑)」

アンディ「ゾンビもモンスターも怖くないんですよね。では、虫は?蜘蛛が苦手な人も多いですが」

ヒグチ「怖くないです」

ヒグチさん私物のBlu-rayにペニーワイズを直筆!
ヒグチさん私物のBlu-rayにペニーワイズを直筆!

アンディ「ゴキブリは?」

ヒグチ「怖くないです」

アンディ「オーマイゴット!僕はゴキブリがとても怖いですよ(笑)。家にいたらどうするんですか?」

ヒグチ「いえ、家でも出会わないですよ」

アンディ「いやいや、アルゼンチンでは家に出るよ。日本にはいないのかな?」

ヒグチ「いますけれど、“それ”と同じなんです。怖がらなければ出てこない。まあ、もしいても『外におかえり』と、ぽいってするだけです(笑)」

アンディ「あなたは私が思っているよりクレイジーかもしれないね!(笑)」

クリエイター同士、終始大盛り上がりの対談となった
クリエイター同士、終始大盛り上がりの対談となった

取材・文/ 梅原 加奈

<人間ドラマ編>
<自己責任編>
<完結編>

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