“それ”の恐怖の本質とは?アンディ・ムスキエティ×ヒグチユウコ『IT/イット THE END』特別対談
「ホラーとユーモアは表裏一体。楽しみでないといけないんです」(ムスキエティ)
——ヒグチさんが『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』でもっとも怖いと感じたシーンはどこでしたか?
ヒグチ「ベバリーが街に戻ってきて、疎遠だった父とかつて暮らしていたアパートメントを訪れる場面です。父はもう亡くなり、その部屋には一人の老女が暮らしている。彼女が扉をあけた瞬間に、奇妙なものが流れる。もうこれは尋常じゃない。なにかあるとわかる。そういうところに、胸がいっぱいになりました」
アンディ「そのシーンは僕も気に入っているところです。ゆっくりゆっくり積み上げていく恐怖のひとつですよね。平穏なシーンでありながら、違和感がある。それが徐々にサスペンスを盛り上げてくれるんです」
ヒグチ「お約束というのか。ベバリーが気づかない後ろにちょっと老女が出てくるのとか、おかしくて。廊下の奥のほうでなにかあるぞ、あるぞ、と。そのワクワク、ドキドキがたまらなかったです」
アンディ「ホラーとユーモアは表裏一体なんですよね。来るぞ来るぞという期待がある。ホラーは楽しみでないといけないんです。80年代には、良質なホラーコメディがたくさんありました。『フライトナイト』とか『ニア・ダーク/月夜の出来事』とかね。そういうものが僕のホラー観の大きな基礎となっています」
ヒグチ「わかります。ペニーワイズもそうですね。恐怖の対象であるんですがユーモアがきちんとある。本作では、登場シーンがどれも素晴らしいですから。これから観る方はぜひ注目してほしい。空を飛んでいるシーンとか、ピエロらしさがありながら、でも、普通じゃない。ますます好きになりました」
アンディ「どうもありがとう」
ヒグチ「衣装もとても素敵ですよね。ティム・カリーが演じたテレビ版『IT』のペニーワイズの衣装もとても好きなんですが、本作のビジュアルもとても気に入っています。ネタバレになってしまうので詳しくは言えませんが、ラストシーンのペニーワイズがとてもよかった。細かなところまでピエロの衣装のフリルがあって。ああ、なんてかわいらしいのかしら、と思いました」
アンディ「ペニーワイズらしい気持ち悪さとはなんなのか追求したので、そう言っていただけてうれしいです」
ヒグチ「最終形態で、全然違うものになってしまったらどうしようと思ったんです。でも、想像を裏切る素敵なビジュアルでした」
アンディ「すごく奇妙でシュールなものにしたかったんです。ハリウッド映画的な発想で、大きくてただ強いモンスターになったところでつまらない。もっとグロテスクで、おかしなもの、だから恐怖を煽るものとなる要素が必要だった。でも、ユウコさんは怖くはなかった?」
ヒグチ「……怖くはないですね(笑)」
アンディ「ゾンビもモンスターも怖くないんですよね。では、虫は?蜘蛛が苦手な人も多いですが」
ヒグチ「怖くないです」
アンディ「ゴキブリは?」
ヒグチ「怖くないです」
アンディ「オーマイゴット!僕はゴキブリがとても怖いですよ(笑)。家にいたらどうするんですか?」
ヒグチ「いえ、家でも出会わないですよ」
アンディ「いやいや、アルゼンチンでは家に出るよ。日本にはいないのかな?」
ヒグチ「いますけれど、“それ”と同じなんです。怖がらなければ出てこない。まあ、もしいても『外におかえり』と、ぽいってするだけです(笑)」
アンディ「あなたは私が思っているよりクレイジーかもしれないね!(笑)」
取材・文/ 梅原 加奈