『ターミネーター:ニュー・フェイト』でT-800役に復活!A・シュワルツェネッガーにLAで直撃インタビュー
「映画は、もっと現実を反映させていくべきだ」
――カメラの前に立つ映画スターとして、そして映画産業からの収入を重視するカリフォルニアの州知事として、ハリウッドの経済を見据えてきたあなたにとって、北米以外の資本で映画が製作される業界の傾向をどのように受け止めていますか?
シュワルツェネッガー「映画の資金が海外から調達されていることはいいことだと思っている。ハリウッドは、いままで海外からの興収で利益を得ても、製作資金の投資に関しては、外部からの協力に閉鎖的だった。本作は中国のテンセントから投資を受けた作品だが、結果的に映画のスケールが拡大し、内容も向上したと思っている。世界からの共同出資を受けることによって、配給を含めた全面的支援を、海外から受けることができるからね。特に中国のように自国で広く映画を広告、配給するノウハウがある国を味方につけることは、僕らにとっても利益になる。フランス、中国、日本、ドイツなど、様々な国が作品に出資することで、それぞれの国がハリウッドから利益を得られる。世界の国々が協力し合えば、映画業界はグローバルに拡大する。大切なのは、外国から受け取った資金を自分たち利益の為だけに利用するのではなく、世界の国々が映画業界に進出することを斡旋し、全体の経済向上につながる機会を提供することだと思っているよ」
――今回のターミネーターは、メキシコが舞台で、ガブリエル・ルナやディエゴ・ボネータ、ナタリア・レイエスといったラテンの俳優陣を揃え、南米からの影響を反映させているように感じますが、それはどうお考えですか?
シュワルツェネッガー「特にラテンの影響に特化しているわけではないが、本作に国際的なキャストが採用されているのは、ただの偶然ではない。昔は、海外の俳優がハリウッド映画に脇役で出演することはあっても、主役はいつもアメリカ人だった。最近は、映画も真の多様性に向かっていると感じている。現実を反映させた作品を作ろうとするのであれば、それは当たり前のことで、これからの映画製作における新しい基礎だと思う。カリフォルニア州には多くのラティーノの人々が住んでいるのは事実だ。映画は、もっと現実を反映させていくべきだね」
「キャメロンは天才だよ」
――キャメロン監督と長くお仕事をされてきましたが、彼の才能を確信した瞬間はいつでしょうか?
シュワルツェネッガー「キャメロン監督と第1作を撮影した時のことで覚えているのだけれど、どうしても彼は僕に『I’ll be back (アイル・ビー・バック)』と言わせたかったんだ。でも僕はどうも語呂が良くない気がして『I will be back(アイ・ウィル・ビー・バック)』と変更した方がいいと、キャメロンに提案したんだ。すると彼は『台本にそう書いてあるか?』と聞いてきた。私が『いや、台本にはI’ll be back (アイル・ビー・バック)と書いてあるが…』と答えると、キャメロンは『なぜ台本通りに言えないのか?』と聞いてきたんだ。私が諦めずに『どうもこれだと語呂が悪いんじゃないか』と言い返すと、キャメロンは一瞬黙って、『俺はお前の演技を批判していない。お前は俺の脚本を批判するつもりか』って言ってきたよ(笑)それを言われた私は、タジタジになってしまった。それにしてもまさかあの『I’ll be back (アイル・ビー・バック)』というセリフが映画史に残るほど有名になるとは、全く予想できなかった。キャメロンは天才だよ。『Hasta La Vista Baby(アスタラビスタベイビー)』もそうだ。映画が公開されるまで、どのセリフが有名になるかなんて誰にもわからないからね。あと、強い女性が登場するのも、彼の作品の特徴だ。女性がヒーローなのは、リンダ・ハミルトンが活躍した第1作から変わらない。『ターミネーター2』、『アバター』、『タイタニック』、そして『エイリアン』といったキャメロンの作品も、女性がヒーローとして描かれている。フェミニストなのだろうとどう言われようとも、事実として世の中には強い女性が沢山存在する。しかしハリウッド映画ではどうしても男性がヒーローとして描かれることが多い。だからこそ女性をヒーローとして描くことで、観客からの反響を得られると、キャメロンは分かっているんだ」
――もしタイムトラベルをして1985年の自分に出会えるとしたら、なんと言いたいでしょうか?
シュワルツェネッガー「『この幸運な野郎め』っていうね(笑)どの時にタイムトラベルしようとも、私は本当に幸運に恵まれていたと思う。当時は辛いと感じていた幼少期だってそうだ。両親に厳しく育てられた過去は、いまの自分を形成した大切な時期で、オーストリアを離れ、渡米したいという強い意志を与えてくれた。成功したいという強い野心も、両親に植え付けられたと思っている。人生を振り返ると、私は常に“世界一幸運な男”だったと思う。このように様々なキャリアを経験できたことに、自分でも驚いている。今年で72歳になるが、ほとんどの人が引退するこの歳で映画に出演し、南カルフォルニア大学の『シュワルツェネッガー研究所』を運営し、環境問題への取り組みやフィットネスのプログラムの普及にも携わっている。この歳でここまで沢山のことが達成できるなんて本当に信じられない。私の人生は100点満点としか言いようがないね」
気取りのない口調と、爽快な笑い声で最後の質問に答え終わると、シュワルツェネッガーは自分から差し伸べた手で握手をし、じっと目を見て「インタビュー、ありがとう。」と言い、ゆっくりとした足取りでインタビュー部屋を去った。
本作は8日に日本公開されるやいなや、週末だけですでに観客動員数44万人、興行収入6億円超えの大ヒットスタートを切り、動員ランキング1位を記録した。16日(土)には前日談『ターミネーター2』が「土曜プレミアム」での地上波放送も控えており、いままさに巻き起こっている“ターミネーター旋風”から目が離せそうにない。
LA在住/小池かおる