すべての作品を焼き捨て渡米した草間彌生の、NYでの知られざる苦悩とは?
代表作である水玉かぼちゃのオブジェがいまや子どもにまで愛され、2017年には自分の名前を冠した美術館もオープンするなど、抜群の人気を誇る前衛芸術家の草間彌生。インパクトある作品群は有名だが、その一方で彼女がどんなことを成し得てきた人物なのかを知らないという人も多いのではないだろうか?
そんな彼女を語るうえで見落とされがちな、1950年代〜70年代初頭のニューヨークでの活動とその影響にスポットを当てたドキュメンタリーが、現在公開中の『草間彌生∞INFINITY』だ。輝かしい功績を残してきた一方で知られざる苦悩も多く、驚くべきエピソードが数多く語られている。
御年90歳でありながら現在も精力的に活動を続ける草間。その活動は多岐にわたり、絵画や彫刻、インスタレーション、パフォーマンスアート、詩や文学といった様々な分野で功績を残してきた。そんな草間の作品といえば“水玉”のイメージが強いが、その目覚めは10歳のころ。水玉と網模様をモチーフに絵を描き始め、水彩、パステル、油彩などを使った幻想的な絵画を制作していたのだそう。
そんな彼女は1957年に渡米することになるのだが、その際に「より良いものを作る」という意思の表明から、なんとそれまでの自分の作品をすべて焼き捨てた(!)というから驚き。強い決心でアメリカに渡りニューヨークに活動の場を移すが、無名の草間に様々な困難が立ちはだかる。というのも当時は女性が単独で個展を開くのは不可能な時代で、画商の協力を得ることが難しく、さらに草間の場合は日本人であるということもネックになり邪険な扱いを受けたのだ。
逆境にも屈せず死に物狂いで作品を生み出し、時には自ら画廊を運営し展示を行ったことも。そして行き着いたのが、“ハプニング”と呼ばれるエキセントリックなインスタレーションだ。彼女の革新的な発想はアート界に衝撃を与え、布や糸、ゴムなど柔らかな素材を用いて立体作品を作るソフト・スカルプチュアのアイデアはクレス・オルデンバーグに、他のアイデアもアンディ・ウォーホルにインスピレーションを与えるまで大きな影響を与える。しかしそう言えば美談のようにも聞こえるが、実際はアイデアを盗られたことにショックを受け、アイデアの流出を避けるためアトリエの窓をすべて塞ぎ、秘密裏に制作するようになったのだそうだ。
エピソードは枚挙にいとまがなく、海外時代は、MoMAの彫刻庭園でハプニングを行い警備員につまみ出されたり、ヴェネチア・ビエンナーレで無許可でインスタレーションを販売するというパフォーマンスを行うなど、前衛的な活動はどれも衝撃的なものばかりだ。
それと同時に精神を病み、帰国と同時に美術界から一時は消えることになる。それでも作品を生み出し続け、89年にニューヨークで回顧展が行われるなど、ついにいまに通ずる世界的な名声を得ることになった草間彌生。その栄光の裏側にあった壮絶な活動の全貌を、ぜひスクリーンでチェックしてみてほしい。
文/トライワークス