【短期集中連載】藤原竜也という才能<4> 映画『カイジ』ついに最終回!佐藤東弥監督が語る、孤高の映画俳優の素顔とは?
シリーズ3作目にして最終回となる『カイジ ファイナルゲーム』(公開中)で、9年ぶりにカイジ役に向き合うこととなった藤原竜也。前二作のメガホンをとり、ドラマ&映画で人気を集めた「ST 赤と白の捜査ファイル」でも藤原とタッグを組んだ佐藤東弥が監督を務める。そんな藤原の魅力を知り尽くしている佐藤監督は、「藤原竜也はユルい部分とものすごくハードな部分の両方を持っていて、それをうまく切り替えて出すことで、“カイジ”というキャラクターを彼にしかできない形で作り上げていった」と語る。
原作者の福本伸行が「印象的な『悪魔的だー!』のセリフもそうですが、映画『カイジ』が最初に世に出てから、カイジモノマネみたいなものがありますよね。それだけ強烈なキャラクターって、なかなか生まれないじゃないですか。それって、藤原さんの勲章だと思うんです」と話すように、カイジはとかくインパクトの強いキャラクターとして私たちに印象付けられている。しかし、カイジがここまで長く、多くの人に愛されてきた理由はそれだけではない。
「カイジ」シリーズを撮るうえで、佐藤監督がなによりも意識したのは「カイジはふつうの人じゃないとダメ」ということである。「なんなら、ふつうの人よりダメな人。努力が嫌いで、ガマンも嫌い。怠け者だし、怖がりだし、明日できることは明日、明後日でもいいやっていう人。僕らのなかにある弱い部分をすべて持っている人でなければいけない」。そんな“ふつう以下”の主人公が、追い詰められた勝負で超人的な活躍を見せ、最終的に物語を大団円に引っ張っていくところが、シリーズの魅力の一つだ。
「ふつうの人がヒーローになるって、言うのは簡単ですけど、実はすごく難しい。カイジは、ダメな部分は変わらず、彼にしかできないやり方である種のヒーローになる。決して特別ではないダメなヤツでも、役目を与えられるチャンスが来たらがんばれるかもしれない…!と思ってもらうことが一番大事で、そこに落とし込まければいけないんです。藤原さんはそれをすごくよく理解していて、実に見事にいい味を出してくれたなって思います。それは1作目の時からそうでしたね」
『ファイナルゲーム』の撮影現場では、かつてより「迷わなくなった」藤原の姿に変化を感じたという。「どう見えるだろう、どう伝わるだろう、ということを考えながらも、そこに『いや、俺はこれでいく!』という、ひとつの自信みたいなものをしっかり持っている人になったなと思いました。また、主役って、芝居で言うと“座長”なんですよね。ほかの共演者やスタッフのことを、彼はとてもよく見ているんですよ。チームが最高の仕事ができるようにと、すごく考えながらやっている。それは『ST』のころから感じていたんですけど、そこが『カイジ』の1、2作目と比べて、一番変わったことかなと思います」
一見、テキトーに見えて、実は熱い正義感を秘めている男。負け組と罵られ、社会に虐げられながらも、決してプライドを失わない男。カイジを演じる俳優には、押しの強さだけでなく、多面的で複雑な内面も表現することが求められた。佐藤監督は「ナチュラルな芝居が得意な人がいる。逆にものすごくテンション高くして、ウワーッといくタイプの人もいる。どっちか片方だけうまい人は本当にたくさんいます。藤原さんはその両方ができるんです」と明かす。
「その場にすごく溶け込んで、自然に芝居をすることもできるし、リアリティをぜんぶ、ぶっ飛ばしてでも、周りにいる人のハートわしづかみにして、ガーンといく芝居もできる。両方できるところが、ほかの俳優さんとは一番違う、すごいところだなと」。
20代のころはクセのある悪役を多く演じていた藤原が、「もっと複雑な人物を演じるようになったのは『カイジ』以降じゃないかなって、僕は思っているんです」と佐藤監督。演じる役柄によって“光の藤原竜也”と“闇の藤原竜也”があるとしたら、監督が撮ってきたカイジや『ST』の赤城左門は、まさに”光”のほうだ。
「30歳を超えてから、悩んでいた壁を突破したんじゃないかな。それは僕のおかげとかじゃなくて、いろんな監督と仕事をしたこと、そしてやっぱりご本人も師と仰ぐ蜷川幸雄さんが教えてくれたこともいきていると思います。これからも僕は、彼が素で持っている温かさとか、ユルさをうまく出していきたいなって思います」。
シリーズ1作目から10年以上が経ち、大人になった俳優・藤原竜也が次にどこへ向かうのか、まだまだ目が離せない。
取材・文/石塚圭子
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