花澤香菜に直撃!『HUMAN LOST 人間失格』の葉蔵は「どうしてあげればいいのかわからない青年」
「私が演じた美子の声に対して表情が付いていくのは貴重な経験」
完成した作品を観て、そのビジュアルの完成度にも興奮したという花澤。「『踊る大捜査線』シリーズも手掛けた本広克行さんがスーパーバイザーということもあって、序盤の暴走シーンでレインボーブリッジが封鎖されるところなんかはテンションが上がっちゃいました(笑)。CGだからこそできる表現もあちこちに散りばめられていて、収録時にはコンテを見ながら『どんな映像なんだろうな』と悩みながら演じるところもあったのですが、完成した映像を観てなるほど!と感心しました」
本作の収録は映像の制作よりも先に音声を収録する「プレスコ(プレ・スコアリング)」で行われた。演じる側としては、通常のアフレコとどのようなところが違うのだろうか?「会話のテンポや間を自分たちで決められるというのは、すごくやりやすかったです。カットの切り替わりなどの要素をあまり意識せずに演じられるので、人間のリアルな呼吸に合ったテンポになっていると思います。普段はキャラクターの表情に合わせて台詞にも表情をつけますが、今回はその逆で、私が演じた美子の声に対して表情が付いていくのは貴重な経験でしたね。ロスト化した葉蔵と対峙するシーンでは、その恐怖感をもっと出すためにアフレコで録り直したりもして…。映像制作の皆さんも、とてもエネルギーをかけて作り上げてくださったと思います」
「原案と『HUMAN LOST 人間失格』はまったく違う世界観」
『HUMAN LOST 人間失格』には、原案となった小説版を知る“太宰ファン”が思わずニヤリとしてしまうような台詞や演出が随所にみられる。「私ももちろん原案となった小説は読んでいたので、冒頭の『第一の手記』というワードだけで『あ、これは!』ってなっちゃいました(笑)。バーの店主であるマダムも出てきますし、登場するキャラクターや機関の名前なんかを見ても『この役どころなんだな…』と楽しめるはずです。葉蔵の苦悩や、堀木と美子の間で揺れる心の動きは、原案の葉蔵と似ている部分があるかもしれません。原案と『HUMAN LOST 人間失格』はまったく違う世界観なので、実際にどんなものになっているのかをぜひ劇場で観ていただきたいです。反対に、小説を読んだことがないという人はきっと、この作品を観たら読んでみたくなるんじゃないかな。1回観ただけでは補完しきれない部分があるかもしれないので、気になったところをまた観たりしながら楽しんでいただけると思います」
花澤は『HUMAN LOST 人間失格』を、「人間」に合格する・失格するとはどのようなことを意味するのか、人間とはどんな存在なのか、そんな問いを投げかけてくる作品だと評した。緩やかな崩壊へと進みつつあるようにも見える昭和111年の日本で繰り広げられる新たな「人間失格」を、ぜひ観届けてほしい。
取材・文/藤堂真衣