『男はつらいよ』の4Kデジタル修復は、職人技と情熱なしではできなかった!(『男はつらいよ』50周年メモリアル 第2回)

コラム

『男はつらいよ』の4Kデジタル修復は、職人技と情熱なしではできなかった!(『男はつらいよ』50周年メモリアル 第2回)

国民的映画シリーズ『男はつらいよ』が4Kデジタル修復版で初BD化!1作品の修復に約200〜500時間かけたという本プロジェクトの裏には、技術者たちの職人技と情熱があった!!

第50作『男はつらいよ お帰り 寅さん』は12月27日(金)公開!
第50作『男はつらいよ お帰り 寅さん』は12月27日(金)公開![c]2019 松竹株式会社

第1作の劇場公開から50周年。これまでの全49作が4Kデジタル修復され、初BD化される。長きにわたって日本人に愛され続ける『男はつらいよ』の、驚異的な高画質&高音質での“お帰り”。今回のBDを観れば、その修復度合いに誰もが驚くはず。山田洋次監督総合監修のもと、いかにして49作品がレストアされたのか、修復作業の責任者である松竹映像センターの五十嵐真氏に取材した。

『砂の器』(74)や『晩春』(49)などの修復を担当してきた五十嵐真氏
『砂の器』(74)や『晩春』(49)などの修復を担当してきた五十嵐真氏

「目指したのは“映画館で聞いてきたフィルムの音”」

――修復プロジェクトが立ち上がったいきさつを教えてください。

「今の劇場のほとんどがデジタル映写になって、フィルムしかない作品は上映できなくなってきています。またフィルム自体が経年劣化によって状態が悪くなってきていることと、2019年が映画版第1作誕生から50年ということも重なって、約2年前からシリーズ全作の大掛かりな修復に着手しました。予算規模としては大作映画をつくれるレベルです」

――4Kでの修復の工程はどうなっているのでしょうか。

「まず、いちばん良い素材を探します。本シリーズはオリジナルのネガが全部残っているので、画をスキャンするところから始めます。画に関しては、劇場はもちろん、今後の放送も含めた運用に耐えられるように、4Kのサイズで1コマずつ傷をなくして、退色した色調を調整しています。また長い期間つくられたシリーズなので、使うカメラやフィルムが途中で変わっています。なので、シリーズを通して鑑賞した際に統一感が出るよう注意を払いました。くるまや(とらや)の緑っぽいのれんや障子の色の具合などです。音に関しては、ほとんどの作品がセリフと効果音、音楽がミックスされフィルムに焼き付けられたモノラルの完成品しかない状態でした。あるノイズを取ると、他の音にも影響が出てしまうことがあるので、そうならないようバランスを取って進めました。目指したのは〝映画館で聞いてきたフィルムの音〟です。くるまや内の芝居でいうと、奥に向かいの江戸屋を映したカメラ・アングルで、寅さんが江戸屋のおばさんと世間話をしてからくるまやに『よお!』と入ってくるシーン。ビデオやDVDでは、寅さんが何を話しているのか、正確には聞こえなかったんです。でも、今回はオリジナルのネガフィルムからスキャンした音の素材を使用して復元したので、細かい音まで聞き取れます」

――修復で難しかった点や苦労されたことは?

「デジタルだと何でもできるので、やり過ぎないようにしたことですかね。確かにキレイにしますが、今まで皆さんが映画館で観た印象を損なわないようにしました。山田洋次監督に観てもらうのはもちろんですが、細かいところは山田組のカメラマンの近森眞史さん、花田三史さん、長沼六男さんにも観てもらって確認しています。また俳優さんの都合や撮影時の状況で、夕方のシーンを夕方に撮影していない場合もあります。帝釈天の情景カットは夕方に撮影できているのに、その後の芝居がそうなっていないこともありました。そういうシーンでは多少、赤みを足したりして、やり過ぎない範囲で調整しています」

【写真を見る】寅さんが夫と別居中の人妻(若尾文子)に惚れる『~純情篇』。渥美が敬愛する森繁久彌と共演。宮本信子も出演する
【写真を見る】寅さんが夫と別居中の人妻(若尾文子)に惚れる『~純情篇』。渥美が敬愛する森繁久彌と共演。宮本信子も出演する[c]1969/2019 松竹株式会社

――今回の作業で損傷が激しかった作品などはありましたか?

「第6作『〜純情篇』には以前、DVDを出した時にはなかった、フィルムにスジが入っていました。小津安二郎作品などでも見受けられる現象で、かなりフィルムが傷んできている証拠なんです。あと第9〜16作は色が出にくいフィルムになっていて、ちょっと緑っぽい色調になっています。退色が進んでいるようで、その辺の色の調整も難しかったですね」

地に足をつけて働こうと決意した寅さんが浦安の豆腐屋で働く『~望郷篇』。マドンナは豆腐屋のひとり娘役の長山藍子
地に足をつけて働こうと決意した寅さんが浦安の豆腐屋で働く『~望郷篇』。マドンナは豆腐屋のひとり娘役の長山藍子[c]1969/2019 松竹株式会社

――五十嵐さんご自身の『男はつらいよ』シリーズへの思いは?

「子供の頃、家族に連れられて第5作『〜望郷篇』を浅草の映画館で観たのが最初です。子供だったので、おかしさが分からない箇所もありましたが、寅さんの仕草だけはよく覚えています。昔は立ち見客も多かったですね。後方の扉が閉まらないまま、みんな観ていました。ああいう雰囲気って今だと考えられないですけどね。個人的なベストはやはり第5作『〜望郷篇』。寅さんが、さくらに嘘をついてお金をせしめて北海道に行く場面があるんですけど、そうやってさくらをダマすのが、いかにも寅さんらしくて好きなんです。本当に厄介者(笑)。そこが良かったんです。マドンナとしては浅丘ルリ子さんのリリー(最新作『お帰り 寅さん』を含めて最多6回)と、第17作『〜寅次郎夕焼け小焼け』の太地喜和子さん演じる芸者のぼたんが好きです」

寅さんが龍野芸者のぼたん(太地)と所帯をもとうとする『~寅次郎夕焼け小焼け』。
寅さんが龍野芸者のぼたん(太地)と所帯をもとうとする『~寅次郎夕焼け小焼け』。[c]1969/2019 松竹株式会社

――今回は修復された作品は、49作収録のBD BOXと単品BDが発売されます。購入される方にメッセージをお願いします。

「映画には人生を変えるような力があると思っています。そうした力が感じられるよう、作品を大事にし、また後世に残せるよう仕事をしてきたつもりです。またパッケージを所有することは〝映画をより身近な存在にすること〟だと思っています。我々が手間と時間を存分にかけて修復した『男はつらいよ』を観続けていただきたいですね」

取材・文=飯塚克味【DVD&動画配信でーた】

五十嵐真
『砂の器』(74)や『晩春』(49)などの修復を担当。

男はつらいよ 50周年記念 復刻“寅んく”
4Kデジタル修復版ブルーレイ全巻ボックス
12月25日(水)発売 完全数量限定生産 松竹 BD 19万円+税
[特典映像]
寅さんと50年 特別編/寅さんが遺してくれたもの~山田洋次監督が語る 寅さんの人生論・幸福論/フーテンの寅さん誕生/おーい、寅さん 男はつらいよをつくる シリーズ26年目の素顔/最後の撮影現場日記/特報/予告編
[封入]
ジャンパー/ピンバッジ/ポスター(全49作+50周年記念版)/プレス縮刷版/解説書

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