J・J・エイブラムス監督『スター・ウォーズ』完結編の降板劇を述懐「ゼロから作った」
泣いても笑ってもこれが最後となる、人気SFシリーズの完結編『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』が、12月20日より公開された。1977年よりスタートした同シリーズに終止符を打つという重責を担ったのは、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(15)同様に監督、脚本、製作を務めたJ・J・エイブラムスだ。来日したJ・Jが、シリーズを愛するがゆえに、産みの苦しみを味わったと言う本作の製作秘話を語ってくれた。
祖父、ダース・ベイダーの遺志を受け継ぎ、銀河の圧倒的支配者となったカイロ・レン(アダム・ドライバー)に対し、フォースを覚醒させたレイ(デイジー・リドリー)は、亡き伝説のジェダイ、ルーク・スカイウォーカー(マーク・ハミル)から委ねられた想いを胸に、レイア将軍(キャリー・フィッシャー)や天才パイロットのポー・ダメロン(オスカー・アイザック)、元ストームトルーパーのフィン(ジョン・ボイエガ)ら、わずかなレジスタンスの同志たちと共に戦っていく本作。
「我々は準備中だった脚本を白紙に戻し、ゼロからスタートさせた」
当初、「ジュラシック・ワールド」シリーズで知られるコリン・トレボロウ監督と脚本家、デレク・コノリーのコンビが本作を手掛ける予定だったが、彼らが降板し、白羽の矢が立ったのがJ・Jだった。これまでにも同シリーズでは度々、“降板劇”が報じられてきたが、それは「スター・ウォーズ」という、SF映画の金字塔シリーズだから致し方ないことだと思う。J・Jも「進行していくなかで、どんどん変更も出たし、もっといいアイデアが生まれたら、それもいろいろと試していった」と振り返る。
ちなみに、トレボロウ監督たちは、原案として本編にクレジットされているが、果たして、エイブラムス監督にバトンタッチした時点で、脚本はどこまで仕上がっていたのだろうか?
「彼らは、すでに脚本を何稿も重ねて準備をしていたが、我々はそれを一旦、白紙に戻し、ゼロからスタートさせたよ。でも、オリジナルの脚本家をサポートするのは組合の方針だから、彼らの名前は入れたいと思った。そこは僕自身も監督で脚本家だから気持ちはわかる」。
その結果、42年もの歴史がある「スター・ウォーズ」シリーズを締めくくることになったが「それはチャンスでもあり、大きなチャレンジだったからこそ、やりがいも感じた」と言うJ・J。
「僕の責任は重かった。それは、キャラクターへの想い入れはもちろん、僕を含めた『スター・ウォーズ』ファンたちの情熱や、ジョージ・ルーカスが作り上げたシリーズの精神、ストーリーテリングに対する責任感も感じていたから。もちろん、これまでレイア姫を演じてきた、いまは亡きキャリー・フィッシャーへの想いもあった。今回の映画作りは、それらを鑑みて、いろいろな素材を上手く組み込んでいく作業だったと思う。脚本を書いていて、パッとアイデアをひらめく瞬間がいくつかあったが、それは、まるで劇場で映画を観ているような感覚だった」。
熱狂的なファンの多い「スター・ウォーズ」シリーズだからこそ、ファンと製作サイドの想いを、一蓮托生に持っていくのは至難の業だった。エイブラムス監督は「スター・トレック」のリブート版シリーズや、「クローバーフィールド」シリーズなど、数多くの超大作をメガヒットさせてきたヒットメーカーで、製作、監督、脚本と、どの分野においても両者を取り持つバランス感覚に長けている。おそらく、今回も絶妙なリーダーシップを発揮したに違いない。
ちなみに、前作『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』(17)では、製作総指揮を務めていたJ・Jだが、ライアン・ジョンソン監督にバトンを渡した時のことをこう振り返った。「ライアンが監督に抜擢されたのは、製作サイドが彼の才能を認め、その価値を見出したからお願いしたんだ。そして、ライアンも選ばれたからには、人形のように操られたくはなかったはず。打ち合わせで僕は、遠慮なくに自分の意見を言ったが、だからといってなにをどうするべきか、という指示は一切与えなかった。ただ、彼を奨励しただけだ」。
ではJ・J自身は、シリーズの生みの親であるジョージ・ルーカスのことを、どのくらい意識して本作を作ったのか?「ルーカスには、最初に会いに行って、彼がどういう意見を持っているのかをちゃんと聞いた。ただ、彼もストーリーについて、どういう筋にしろというようなことは一切言わなかったし、僕からも具体的な話はしなかった。でも、彼が作り上げたものを僕たちが継続できたこと自体がすばらしいことだと僕は思っているから、そこを踏まえたうえで、あとは自分たちで物語を作っていった。ルーカスは、公開前に本作の完成版を観てくれると思うけど、まだ感想は聞いてないよ」。
「キャリー・フィッシャーはけっこう自分自身に厳しい人だった」
映画館でしか全貌がわからない本作だが、2016年に他界したレイア将軍役のキャリー・フィッシャーについては、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』の撮影時に撮った未使用シーンが使われていることが明かされた。
「本作をレイアなしで終わらせることはできなかった」と言うJ・J・エイブラムス監督は代役を立てたり、デジタル処理をしたりする手段は選ばなかった。「キャリーとは『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』で初めて仕事をしたけど、ものすごいユーモアのセンスを持った人で、自虐ネタなどで僕たちを楽しませてくれた。だから、今回の撮影で彼女がいないのは、とても寂しかったよ」と哀悼する。
「キャリーはけっこう自分自身に厳しい人でもあり、テイク中に思い通りの演技ができず、自分の頭を叩いたりすることもあったよ。ただ、娘のビリー・ラードがついていてくれたから良かった。これだけは言えるが、キャリーがもし生きていたら、認めてもらえるような作品にはしたつもりだ」。
また、新キャラクターとして、すでにイベントでお披露目された新ドロイドのD-Oも話題となっている。「いろんなデザインを試した結果、アヒルに似た形状になった。名前の由来は、“D”と“O”のフォルムから来ている」。これは、BB-8と同じような命名の仕方だ。
そして気になるのは、最先端のテクノロジーを駆使した映像の進化だ。「本作は、ILM(インダストリアル・ライト&マジック)における最高の仕事になったと思う。最新技術だけではなく、昔ながらの技術も使っている。例えばパペットについても、すごく進化を遂げている。一例として、マズ・カナタ(惑星タコダナで酒場を経営するヒューマノイド)は、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』ではすべてCGだったけど、今回はちゃんと現場にパペットがいた。いろいろな技術が進歩しているので、映画を観てもらえばなにか感じてもらえると思う」。
最後に、これから映画を観る「スター・ウォーズ」ファンに、メッセージをもらった。「完結編だけど、悲しむべきストーリーではなく、とても感動的なもの、楽しいものに仕上がったと思う。ロマンスやコメディが盛り込まれていて、エキサイティングなシーンも満載な心に響くアドベンチャー映画になっているからぜひ楽しんで観てほしい」。
取材・文/山崎 伸子