のん、3年間で変化「どっしりとしたものが自分のなかにできた」

インタビュー

のん、3年間で変化「どっしりとしたものが自分のなかにできた」

「きれいになった」と話題ののん。変化のワケとは?
「きれいになった」と話題ののん。変化のワケとは?撮影/野崎航正

近ごろ、女優・のんがグッと大人っぽくなったと話題だ。本人を直撃すると、のんとしての活動をスタートさせ、自身にとって代表作とも言える『この世界の片隅に』(16)と出会ってから3年の間に「自分のなかで変化があった」と告白。「どっしりとしたものが自分のなかにできた」と力強い眼差しを見せる彼女に、『この世界の片隅に』に250カットを超える新エピソードを加えて、新たな物語として描きだす『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』(公開中)への想い、そして“変化の理由”を聞いた。

第二次大戦下の広島を舞台に、呉へとお嫁にやってきたすずが懸命に生きていく姿をつづり国内外で大きな反響を呼んだ『この世界の片隅に』。新規映像を加えた『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』では、これまで目にしていたシーンや人物像がまったく異なる印象で息づきはじめる。

「3年ぶりにすずさんを演じられた。すごくうれしい」

『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』は公開中
『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』は公開中[c]2019 こうの史代・双葉社 / 「この世界の片隅に」製作委員会

主人公すずを再び演じられることに、のんは喜びをあふれさせる。「長い期間をおいて同じ役に挑むというのも初めての経験だったので、いざ演じるとなると不安はありました。でもいちファンとして、『あのシーンも加わるんだ』と思うとすごくうれしくて。この3年、私のなかで、すずさんは同じ世界を生きている“同志”のような感覚になっていて。いまでも一緒に生きているような感じがするんです」とすずがずっと心のなかに住み続けているという。

「スタジオに行くと、監督がいらっしゃる。監督への信頼があったので、しっかりと強い気持ちを持って臨むことができました」と演じるうえで支えになったのは、片渕須直監督の存在だ。「アフレコでは、監督から『(夫の)周作さん(役の細谷佳正)、違うボールを投げてきていますよ』と言われて。気合を入れてねと、おどしを受けました」とお茶目に笑う姿からも、片渕監督への大きな信頼感が伺える。

時代や場所についてとことん調べるなど、片渕監督の圧倒的なこだわりが込められているが、『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』においては、すずの生きる世界がまた深く描かれることとなった。のんは「片渕監督は『前作で晴れとして描いていたシーンがあるけれど、実際のその日は曇りだった。今回描き直す』『包丁の形が、呉で使われていたものとはちょっと違っていた。それを直したい』とおしゃっていたり…」と微笑みつつ、「前作も6年かけて作っていらっしゃるし、今回もここまで来るのに3年かかっています。片渕監督は、絶対に妥協しない、容赦しないというところがあって。そういう姿を見ていると、こちらも集中力が研ぎ澄まされるんです」と語る。

「以前は“衝動的に突っ走る”というエネルギーだけだった」

言葉で伝える大切さを知った
言葉で伝える大切さを知った撮影/野崎航正

片渕監督の妥協なきものづくりの姿勢に触れると、「すごく幸せを感じて、気持ちがいい」と清々しい笑顔を見せるのん。近ごろ「雰囲気が変わった」「きれいになった」とも話題の彼女だが、「この3年の間では、自分のなかでも変化があったという気がしています」と打ち明ける。

2016年に「絶対に特別な作品になると思った」という『この世界の片隅に』と出会い、「すずさんの人生に触れて、自分自身、気づくことがたくさんあった。すずさんの力強さを感じることで、自分の意志が深まったようにも思うんです。以前は“衝動的に突っ走る”というエネルギーだけで、そこに立っているという意識があったんですが、いまはどっしりとしたものが自分のなかにできたような気がしています」と吐露。

この3年の間、片渕監督と取材を受けたり、各地の舞台挨拶に立ったりと、たくさんの時間を共に過ごしたが、それも特別な経験となった。「監督は何百日も舞台挨拶に立たれているのに、『毎回違うことを言わなきゃ』とおっしゃっていて。そのような話を隣で聞いたり、片渕監督がお話をすることで、どんどん『映画をぜひ観たい』という方が増えたりと、そういった現象を目の当たりにしてきました」と刺激的な日々だったそうで、「監督の姿を見て、“きちんと言葉で想いを伝えること”って、すごく大事だと思ったんです。自分のなかで、すごく意識が変わりました」と語る瞳には確かな意志と情熱が宿っており、こういった内面の変化こそ、のんが“グッと大人っぽくなった”一番の理由に感じる。

「女優業は、“やるべきもの”。やっぱり私にはこれしかない」

のんとしての活動のスタートに片渕監督、そしてすずと出会えたことは「すごく大きなことだった」としみじみ。「『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』では、すずさんがこんなにも自分の居場所を探して焦っていたんだと、ハッとしました。すずさんは呉にお嫁にやってきて、“嫁の義務”を果たさないといけないと思っていた。今回、すずさんのそういった感情がダイレクトに心に刺さりました」と新規映像が加わったことで発見もあったというが、すずが居場所を探している一方、のんは「私はいま立っている場所が、自分の居場所だと思っています。自分の居場所について不安に思うことはありません」とキッパリと語る。

「女優業は居場所というよりは、自分が“やるべきもの”だと思っています。以前『女優になっていなかったら、なにをやっていたんだろう?』と考えたことがあって。妹に電話して『どう思う?』と聞いたら、『そのへんでのたれ死んでいるかも』と言われてすごく納得しちゃったんです(笑)。『ああ、やっぱり私にはこれしかないな』と思いました。自分のやりたいことが見つけられた自信があります」と熱っぽく語る姿が、なんとも頼もしい。

「すばらしい作品に尽力できたりすると、ものすごく幸せです。監督、スタッフ、そして共演者の方がいて。違う脳みそを持った人たちが、いろいろな想いでひとつのものに向かっていくという感覚は、ものすごく気持ちがいいもの」と女優業の醍醐味を語るが、クラウドファンディングで完成、公開まで辿り着き、作り手の情熱が観客の心を揺さぶり続けている本作は、まさにその結晶のような作品だ。奇跡のような出会いを果たし、「ぼーっとしているように見えて、働き者なところは、すずさんと似ていると思います!」と笑顔をこぼす、のん。ポジティブなオーラが、彼女をますます輝かせている。

【写真を見る】のん、若草カラーの花柄ワンピースが映画のイメージもぴったり!
【写真を見る】のん、若草カラーの花柄ワンピースが映画のイメージもぴったり!撮影/野崎航正

取材・文/成田 おり枝

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