佐藤浩市、渡辺謙が福島県を訪問『Fukushima 50』初お披露目で「福島の地から作品を発信することを誇りに思う」
ジャーナリストの門田隆将が福島第一原発事故の関係者90人以上への取材をもとに描いたノンフィクション作品「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発」を映画化した『Fukushima 50』(3月6日公開)の福島キャンペーンが行われ、主演の佐藤浩市と若松節朗監督、エグゼクティブプロデューサーを務めるKADOKAWA代表取締役副社長の井上伸一郎が22日、いまも帰還困難区域が残る富岡町役場を表敬訪問。さらに翌日23日には、福島県の郡山テアトルにて本作初お披露目となる試写会を開催し、佐藤浩市、渡辺謙、若松監督の3名が舞台挨拶を行った。
最大震度7という、日本観測史上最大の地震となった東日本大震災時の福島第一原発事故を描いた本作。世界のメディアから“Fukushima 50”(フクシマフィフティ)と呼ばれた、福島第一原子力発電所に残った地元福島出身の作業員たちの命をかけた戦い…。現場では一体なにが起きていたのか?死を覚悟して発電所内に残った人々の知られざる“真実”が明かされる。主役となる福島第一原発1・2号機当直長の伊崎利夫役を佐藤浩市が演じ、福島第一原発所長の吉田昌郎役を渡辺謙、さらに吉岡秀隆、緒形直人、安田成美ら豪華実力派キャストたちが結集している。
富岡町役場を訪れた佐藤、若松監督、井上代表取締役副社長は、宮本皓一町長に本作の完成を報告。若松監督は「撮影前の取材も含めまして、富岡町の方々には本当にお世話になりました。是非、皆さまにも観ていただいて『この映画は世界に発信していくべき映画だ』と発信していっていただきたいと思っています」と、感謝と共に力強く作品をアピール。佐藤は「(事故から)決して遠い過去ではなくて、ふと振り返ると昨日のことのように思い出される方もたくさんいらっしゃると思います。思い出されたくない方々もたくさんいるかと思いますが、この事故を風化させてはいけないためには、どうしても映像の力も必要であり、痛みを伴うけれど、この事実を後世に伝えていくためにもこの映画は必要だと踏まえて観ていただけるとありがたいと思います」と静かに語った。また、宮本町長は富岡町での撮影について「この映画を私たちが生き証人として後世に伝えていくために、撮影許可を出すというよりはこちらからお願いしたいという気持ちでいっぱいでした。いままで富岡町をロケーションとして撮影したことなど無かったと思うので、町としてもみんなに観ていただけるようにPRしていきたい」と改めて語った。
さらに翌日、福島県郡山市の劇場である郡山テアトルでは、佐藤、渡辺、若松監督が舞台挨拶に登場。「まずは、福島の方々に本作を観ていただきたい」という想いから実現した福島での初お披露目に、佐藤も「やっとここまで来れたという想いでいっぱいです。決して、楽しんでくださいと言える作品ではないです。観るには苦しすぎるシーンもあるかと思いますが、どうか最後まで観ていってください」と挨拶。渡辺も「いま現在福島に帰れない方々、この事故で人生を変えられてしまった人がたくさんいます。その想いを僕らがすべて背負うことはできないけど、その人たちの想いを少しでもくみ取ってこの映画にぶつけていきましょうと、作品がクランクインした際にお話させていただきました。そこから作品が完成しこの地を皮切りにこの作品を発信できることを僕は誇りに思っています。この作品は必ず未来につながるなにかを感じていただけるんじゃないかなと思っています」と力強く語った。若松監督も、「5年前からこの映画のプロジェクトが始動しまして、ようやく完成しました。福島からこの映画を発信できるということを誇りに思います。誠実にこの映画を作ったつもりです」と福島の方々へ想いを吐露した。
さらに渡辺は、「正直申し上げますと、ちょっとドキドキしています。あの震災と事故を経験した多くの方々がいらっしゃるこの地でこうして試写会をするということで、果たしてどう受け止めていただけるかと不安もありました。でもこの作品の中には良い人間ドラマがあると思っています。私たちは一生懸命に撮ってきたつもりですので、深い映画だなと思っていただけるのではと思っています」と改めて作品について語った。
また若松監督は、佐藤、渡辺について「この2人がいなかったらこの作品は作り上げることは出来なかったです。現場のスタッフはこの2人の背中をずっと見ながら撮影に臨んでいました。とてつもなく熱い芝居を繰り広げています」と絶賛。
また復興について質問された佐藤は、「去年撮影をして、本当に復興は始まっているのかと思いました。この地の現状をどれぐらい知っているのか。それをもう一度皆さんに感じてもらいたい。復興を始めるためには人間の力が必要で、それを進めていかなければならないことを各都道府県の方に伝えていきたいと思います」と訴え、渡辺は「復興というのは、それぞれ違う状況やバックグラウンドがあるので、一つの答えはないと思います。ただ、海も山も里も美味しい食べ物がたくさんある素敵な県が、もっと誇りを持って若い方たちが『福島出身なんだ!』と自信を持って言えるよう戻ってほしいなと思います」と切実に願い、客席からは最後までキャストと監督へ盛大な拍手が送られていた。
震災から約10年が経ったいま、福島原発事故で「最後の砦」となった“Fukushima 50”の決死の覚悟を、スクリーンでぜひ目に焼きつけてほしい。
文/富塚 沙羅