『4月の涙』アク・ロウヒミエス監督「愛は自己犠牲という興味深いテーマを持っている」
レーナ・ランダーの小説を基に、1918年に起きたフィンランド内戦を背景に、敵でありながらも恋に落ちた男女の悲しい運命を描く『4月の涙』(公開中)。フィンラド内戦では約4万人もの人が戦闘ではなく、処刑や捕虜キャンプで命を落とした。そんな哀しく、残酷な戦争の混沌の中に生まれた愛を描き出したのはアク・ロウヒミエス監督だ。監督はランダーの作品を早くから知り、発売前から映画化の構想を膨らませていたという。フィランド映画祭で来日を果たしたアク・ロウヒミエス監督に作への熱い思いを聞いてみた。
――原作のどこに魅せられて映画化したのでしょう?また原作タイトルの「KASKY」(注1)とはどういう意味なのでしょう?
「2つあります。1つは原作小説の終わり方に感動したということ。もう1つは女性が強く、賢いということです。私は強い女性が好きなのです。ピラ・ビータラ演じるミーナの像に私はほれ込みました。『KASKY』はカスキュと読み、フィンランド語で“命令”とか“掟”という意味を持ちます。サムリ・バウラモ演じるアーロは兵士で、兵士は命令や規律を守りますね。そういった意味も含んでいます。日本語のタイトル(注2)がどんなものになるかとても楽しみです」
――内戦で同一民族が敵になってしまう悲しい出来事でした。監督がこの作品で一番訴えたかったこと、見せたかったことは何でしょうか?
「極限状態での愛情表現をどうとらえるのか? 愛は自己犠牲という、簡単に説明できないような非常に興味深いテーマを持っています。そこを映画の中で出したかったんです。また、主要人物それぞれの選択過程も重要だと思っています」
――キャストのセレクトにあたって、監督の基準を教えてください
「私にはポリシーがあって、人間どうしの化学反応に興味があるのです。そしてリアリズムを心がけています。あとは目が印象的かどうかですね」
――主演のサムリとピラは将来期待できる俳優ですね。彼らはどんな俳優ですか?
「サムリは無垢に見えますが、とても肉体派で忍者みたいなんですよ。役作りのため格闘技を学び、撮影中はテントを張って寝ていましたね。ピラは寒さが苦手なのですが、撮影ではマイナス4度の海で泳ぎました。私は力強く独立心旺盛な女性が好きなのですが、まさに彼女はそれにぴったりでしたね」
――映像も音楽も非常に美しく印象的でした。ロケ地はどこだったのでしょう?またクラシックが効果的に用いられていますが、ベートーベンの7番第2楽章を使ったのは?
「実際に内戦が起こった場所、ほのぼのした場所ではなく流血のあった場所を選びました。また海の撮影では古都トルクの沿岸諸島に行きました。実はここはムーミンの舞台なんですよ。ベートーベンの音楽は、原作に出てくるのでそのまま使いました。葬式でよく使われる曲でもありますし、なじみ深いところですね」
――監督が考えるフィンランド映画の特徴を聞かせてください
「悪い点から先に言うと、国内での作品数もジャンルもまだまだ少ないですね。もっと増やしていかなければと思っています。良い点は、ハリウッド系の大作が飽きられ、国内の映画が次第に見られているという点です。私の作品がこうやって日本で公開されるのは大変嬉しいです。日本の方がどう見てくれるのか、とても楽しみにしています」
気さくにインタビューに応じてくれたアク・ロウヒミエス監督。インタビューはホテルの一室で行ったのだが、来日時はまだ温暖で、太陽の光がさんさんと降り注ぐ大きな窓にべったりくっつくようにして微笑えみながら、「ここにずっといたい気分だよ」と語る監督の姿が何とも印象的だった。何しろ北欧・フィンランドは冬が一番長く、冬至の頃は監督の出身地・ヘルシンキで、昼の時間は約6時間、国土最北端では太陽が昇らない日が約50日もある。逆に夏至の頃はヘルシンキで昼が約19時間、北極圏は白夜だ。そんな国土から生まれた『4月の涙』は哀しいまでに温かく、そして美しい。ラストに訪れる感動も胸に響くだろう。是非とも劇場でアク・ロウヒミエスの世界を堪能してもらいたい。【Movie Walker】
注1:正式なスペルは「A」にウムラウトがつく
注2:インタビュー時点では正式邦題は決まっていなかった。結局、英語タイトル『TEARS OF APRIL』をそのまま訳した『4月の涙』に決定した