『キャッツ』見せ場の歌唱シーンでテイク14回!トム・フーパーと主演女優も手応え
「逆に私は14テイクもやれて幸せだった」(フランチェスカ)
愛らしいヴィクトリアのハイライトシーンの1つが、本作のために舞台版『キャッツ』の作曲家であるアンドリュー・ロイド=ウェバーと、本作に出演もしているテイラー・スウィフトが共作した新曲「ビューティフル・ゴースツ」を歌い上げるシーンだ。なんと撮影では、14テイクを重ね、最後のテイクが劇中で使用されたそうだ。「自分の芯がしっかりしているフランチェスカだからこそ、内にある脆さや痛みをもっと表現してほしいと思った。だから、毎回歌い終える度に『いまのは素晴らしかった。でも、もう少し痛みを見せてくれ』などとリクエストをしていったら、14テイクになっていた」と言うフーパー監督。
フランチェスカは「逆に私は14テイクもやれて幸せだった」と振り返る。「実は、監督のねらいなのかどうかはわからないけど、収録日がいつになるのか教えてもらえなくて、2日前くらい前に『明後日に撮るよ』と言われたの。通常、バレエの場合は常にベストなコンディションを保つために普段からトレーニングをして、本番に合わせていくけど、私はプロの歌手でもないから、そういうことはできないでしょ。ましてや今回、歌は初挑戦だったから、最初は緊張して、自分を最善のコンディションに持っていけなかった。だからテイクを重ねる度に監督が『もう少しこうすればいいんじゃないか』とアドバイスをくれたことで助かったわ」。
普段のバレエ公演と映画撮影とでは、向き合い方も違うと言うフランチェスカ。「舞台は1幕から始まり、最後に幕を迎えるまで時系列に進んでいくから、自分が徐々に感情を高めていける。でも、映画は順撮りでないかぎりバラバラで撮るでしょ。例えば『はい、この瞬間、すぐ悲しいことを思いだしください』と言われても、私はさっと感情を切り替えることに慣れてないからすごく難しかった。だから今回も何度もテイクを撮っていくうちに、自分自身の緊張もほぐれていき、自信を持って歌を歌えるようになっていけたの」。
また、今後の女優業についても聞くと「本職のバレエには演劇的な側面があり、自分が全身全霊を捧げて、一晩パフォーマンスをしても、一夜限りでなにも残らないというか、残るのは観客の記憶のなかでのみ。でも、映画は遺産として永遠に残っていく。そこはすばらしいことだと思う。そういう意味でもまた機会があれば、ぜひ映画に出演してみたい」と答えてくれた。
バレエダンサーならではの美しいパフォーマンスはもちろん、目をキラキラと輝かせる白猫ヴィクトリアの表情が忘れられない。2人のベストなコラボレーションは、ぜひ音響設備の整った大スクリーンで鑑賞して。
取材・文/山崎 伸子