【カンヌ国際映画祭】『一命』『朱花の月』など日本関連作品が続々登場!
現地5月17日から18日、19日と日本関連の作品が集まっている今年のカンヌ国際映画祭。何かと盛り上がっている日本関連作品の上映の様子を紹介しよう。
17日の夜は、ある視点部門に日本の劇画作家・辰巳ヨシヒロの自伝と作品を元にした、シンガポールのエリック・クー監督作品『TATSUMI』が登場。監督と共に登壇した辰巳ヨシヒロは初めて完成作を見るということで「何とも言えない気持ちですね」と照れくさそう。自身もかつてコミック作家だったクー監督が5年かがりで完成にこぎ着けたアニメである。
18日にはカンヌが育て上げたと言っても良い秘蔵っ子、河瀬直美監督の新作『朱花の月』(9月公開予定)がソワレに。上映に先駆けて行われた記者会見では、3月の東日本大震災に触れ、「人間が自然を支配できるとに考えてきたことがひっくり返されたのではないか。驚異的な自然の中で生かしてもらっている人間という存在であることを意識しないといけないのでは。ふたりの男に愛される女をモチーフに、自然と共に暮らすということを描いた作品になった」と明かす。
同日深夜は監督週間の特別上映で、園子温監督の『恋の罪』(11月公開予定)がお披露目。主演女優の神楽坂恵も急遽カンヌ入りし、園監督と共に舞台挨拶に立った。会場は拍手の渦で、このジャンルでの日本映画人気を確認した。既に10ヶ国からの上映オファーが来ているという。「大人の女の人の性衝動を肯定的に描いてみようと思った」と語る。過激な表現で知られる園監督作品は好き嫌いが分かれ、途中退場者もいたけれど、園独特のテイストは一度はまると癖になるのは洋の東西を問わないらしい。
19日の公式上映には『一命』(10月公開予定)が登場。マーケット対象のインビテーション用の席が一瞬で埋まってしまうほどの人気だった。三池人気に加え、時代劇、しかもかつてカンヌで賞を獲得した『切腹』(62)と同じ原作からの再映画化ということで、激しい斬り合いシーンが期待されているのだろう。同日22時からの上映では、竹光での壮絶な切腹シーンに目を背ける観客も少なくなかったが、スタンディングオべーションが5分ほど続くまずまずの好評ぶり。「温かい拍手でしたね。コンペ初めての3D上映ということで色々と試行錯誤をお互いに重ねながらの上映でしたが、最高の状態だったと思います」と三池監督。アトラクション的な、カメラに支配された飛び出す映像ではなく、「日本の家の、狭い空間をじっくりと見せる奥行きを出す」目的で3Dを使うというこだわりは、今回のカンヌでその目的を果たせたのではないか。
今年は2008年のリーマンショックからやっと映画界が立ち直り始めた年なのかもしれない。久しぶりに作品的にもスター的にも勢いが戻りつつあり、売買も昨年から比べると好調のようだ。コンペも前半は比較的、厭世的なタッチの作品が多かったが、『The Artist』で流れが変わった。希望へと向かうストーリーの作品が増え、その中で自然との共生、命の再生をうたう『朱花の月』や、家族のかけがえのなさを奪う理不尽な権力にもの申すというテーマの『一命』は、西洋とは違う日本映画の生き方をカンヌに指し示した。世界全体がスターティングオーバーしようという時が来ているとしたら、その期待が日本映画の受賞につながることは十分にありうることだ。最終日の発表を期待したい。【シネマアナリスト/まつかわゆま】