おぞましきドイツの殺人鬼“フリッツ・ホンカ”…ターゲットにした女性たちの共通点とは?
映画化される連続殺人鬼と聞くと、『羊たちの沈黙』(91)のハンニバル・レクター博士や、実在のシリアルキラー、テッド・バンディなど、凶悪犯とわかっていてもカリスマ性を持つような人物をイメージしてしまわないだろうか? 高いIQ、美麗な容姿、巧みな話術…そうした人物像には当てはまらない、孤独な人生を送った殺人鬼もいる。1970年代にドイツ・ハンブルグで連続殺人事件を起こしたフリッツ・ホンカがまさにその主たる例で、彼に迫った映画が現在公開中の『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』だ。
4人の女性を殺したドイツで有名な殺人鬼フリッツ・ホンカ
日本では聞きなじみのないフリッツ・ホンカという名前だが、ハンブルグに住んでいた本作の監督で、『女は二度決断する』(17)の俊英ファティ・アキンによれば、幼いころには「気をつけないと、ホンカに捕まるぞ!」と言われていたほど、ドイツではポピュラーな存在だという。どうしてそこまで恐れられていたのかと言えば、ホンカが70年から75年の間にかけて4人の女性を殺害して死体をバラバラにし、自室である屋根裏に隠し続けるという、衝撃的な事件を起こした身近な存在だったからだ。
そんなホンカが死体の処理に苦心する戦慄のシーンから幕を開ける本作は、ボロアパートと彼が入り浸っていた風俗街にある安酒場を中心に、彼の悲惨な暮らしぶりや女性たちとの関わり、酒の勢いに任せたまったく鮮やかではない生々しい犯行の様子を徹底的にドライな視点で映しだす。そして、彼がとあることをきっかけに、あっけなく警察に捕まるまでが描かれている。
容姿へのコンプレックスと重度のアルコール依存
ホンカを語る上で、まず触れないといけないのが特徴的なそのルックスだ。若いころに交通事故に遭ったことで鼻は潰れ、目は斜視、頭髪は薄くなっており…と、コンプレックスを抱えている。さらには平均身長が180cmほどというドイツ人の中でも、165cmとかなり小柄な男だった。映画では、このホンカのルックスを特殊メイクにより見事に再現。当時22歳の若手俳優ヨナス・ダスラーが40代のホンカを演じているのだが、美男な彼の面影は一切なし。ひん曲がった姿勢でうつむきがちにトボトボと歩き、どこか不気味さを覚える男として登場する。
また、幼少期から暴力的で酒乱な父からアルコールを飲ませられることもあったホンカは、自身もアルコール依存症の大酒飲み。酒癖も悪く、酒の力を借りて威圧的な態度を取るような人間だったようだ。劇中の彼も、普段は大人しくしているのだが、ドイツを代表する蒸留酒シュナップスを酒場でも自宅でも水のように飲み泥酔すると自分より弱い女性にだけ大柄な態度を取る始末。そんなホンカも一度は、酒を断とうとするもののとある女性との関係から再び酒に手を出してしまう…。