安田成美、家族を想いながら演じた『Fukushima 50』に木梨憲武も「泣いた」
東日本大震災時の福島第一原発事故を描く映画『Fukushima 50』(フクシマフィフティ)が大ヒット公開中だ。Movie Walkerでは、佐藤浩市、渡辺謙、若松節朗監督、吉岡里帆と続いたリレーインタビューの最終回として、緊急時対策室総務班の紅一点、浅野真里役を演じた安田成美を直撃した。
安田は本作のオファーが入った時、「震災を描く映画には、絶対に参加したいと思いました。職業柄、自分のできることは、演じて伝えることしかないと思っていたから」と出演を快諾したことを明かした。
安田は、震災直後にボランティアへの参加もできなかったという負い目を感じていたそうだ。「こういう形でなら、自分を使ってもらえるかなと思いました。また、政治的な主張が絡んだ内容ではなく、事実に基づいた作品だという点も大きかったです」。
原作は、門田隆将のノンフィクション「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発」。本作は、2011年3月11日に、マグニチュード9.0、最大震度7という巨大地震が発生し、大津波が福島第一原子力発電所(通称:イチエフ)を襲うというショッキングなシーンからスタートする。その後、電源を喪失し、メルトダウンの危機に瀕したイチエフを制御すべく、作業員たちは、命懸けの作業に挑んでいく。
安田は脚本と原作を読んだ時に、衝撃を受けたそうだ。「震災直後、いろんな人が生死を懸けて闘っていたということを初めて知りました。当時の報道は、一般の視聴者として見ていたので、温度差も違ったとは思いますが、皆さんがこんなにめいっぱい、120%以上の力を出して臨まれていたのかと知り、ただ感動しました」。
「セットでは、津波の映像が大画面で流しっぱなしの状態でした」
主人公である1・2号機当直長の伊崎利夫役を佐藤浩市が、イチエフの所長、吉田昌郎役を渡辺謙が演じた。浅野が務めるのは、吉田所長のいる緊急時対策室だ。「私は途中から撮影に入りましたが、現場には緊迫感が漂っていました。まったく私語もないし、それぞれがテキパキと動いている感じでした。そこでは津波の映像が大画面で流しっぱなしの状態だったので、否が応でも気持ちが入っていきました」。
刻一刻と、イチエフが大変な状況になっていくなか、家庭を持つ浅野が、帰宅することなく、自分がやるべきことをこなしていく姿が胸を打つ。「皆さんそうですが、なんでこんな状況に居合わせてしまったのかと思うのではなく、自分たちが勤務しているところがたまたまこういう状況になってしまったと、すべてを受け入れています。奉仕的な気持ちが当たり前にあるというのが、すごいことだなと思いました」。
原発事故の最前線で指揮を執る吉田所長は実に頼もしいリーダーだが、渡辺自身も役柄さながらの存在感を発揮していたそうだ。「やっぱりあの出で立ちで、あの芝居をすれば、現場もビシッと締まります。緊迫感あふれるシーンばかりを撮っているので、謙さんは時々大きな声で皆を笑わせてくれたり、場を和ませてくれたりと、スタッフも含めての気遣いをされていました」。
「実はすごく大変だったというトイレのシーンもちゃんと描いてあります」
また、このビッグプロジェクトですばらしい采配を見せた若松監督については、その懐の広さに驚いたそうだ。「撮りたいものが決まっているから迷いがないので、とにかく撮るのが早いです。それは、私たち演者にとってはありがたいことでした。また、スタッフや出演者、エキストラの方に至るまで、全員に対して平等な態度で演出をつけてくれます。いつもニコニコしている、とても心の広い優しい方でした」。
浅野が汚れたトイレを掃除するシーンは原作では描かれていない。「監督はすごくスケールの大きいカッコいいシーンを撮るだけではなく、“本当のこと”を伝えることにもこだわられていました。だから現実的に実はすごく大変だったというトイレ掃除のシーンもちゃんと描いたんです。それは、いろいろな人にきちんと取材をされた若松監督ならではの提案だったかと。『このシーンは絶対に抜かしたくないんだ』と言っていました」。
吉田所長は直情的なタイプで、東電本店や官邸とのやりとりなどでは「バカ野郎!」といった罵声を浴びせることもよくある。そんななか、普段から気心が知れている浅野と言葉を交わす時は、わずかながらも緊張がほぐれる様子が窺える。例えば、吉田所長に夫の安否を聞かれた浅野が、「(旦那と)離れていても心が通じ合っている」と答えると、吉田所長から「惚気てんのか?」とツッコまれるシーンには思わずほっこりする。
「あそこは、ようやく普通のテンションで演技ができたシーンでした。なにげないやりとりですが、吉田所長も普通の人間で、私も家族を持つ1人の女性なんだということを伝えられたらいいなと思いました。原発事故の際は、そういう普通の人たちが集まって、闘っていたんだと改めて感じましたから」。
「自分と同じく女性で母親の浅野さん役では、家族への想いがすごくダブりました」
惚気るくらいに仲が良いといえば、安田と夫のとんねるず・木梨憲武も、言わずと知れたオシドリ夫婦だ。「離れていても心が通じ合っている」と言う浅野の台詞は、安田が言うからこそ、一層説得力を感じさせる。
木梨は、昨年再開した音楽活動のなかで発表したラブソング「I LOVE YOUだもんで。」で、臆面もなく「成美さん(LOVE)」と安田への溺愛ぶりを連呼していることが、テレビ番組などで話題を呼んでいるが、安田に感想を聞くと「アハハハ」と笑いとばす。「自分としては、またネタに使われたかなと(苦笑)。でも、歌わなくても、普段からそうなので、それをなぜ世間に言ってしまうんだろう?くらいな感じです」と言うハニカミ笑顔も実に可憐だ。
実際に、浅野役を演じるうえでは、自分の家族を想いながら、リアルな哀しみをシンクロさせていったそうだ。「やっぱり自分にとっての家族という感覚は、私が経験したものでしかないので。浅野さんが女性で母親でもあり、立場的には私と同じだったからこそ、家族への想いはすごくダブりました。浅野さんは、本当に辛かったと思いますが、家族の無事は信じるしかなかった。ましてや自分のやることが目の前にあれば、きっと家族もわかってくれるだろうと思うことしかできなかったのではないかと」。
ちなみに、木梨はすでに本作を観賞済みだと言う。「主人は『すごいな。泣いたよ』と。佐藤浩市さんとはお友だちなので、『浩市さんに電話したよ』とも言ってくれました。子どもたちは、私の違う顔を観るのが恥ずかしいのか、なかなか私の出演作を観てくれないんですが、私のことを常に心配してくれていて、家に帰ると『大丈夫?どうだった?』と聞かれます。私が『台詞、間違えなかったよ』と言うと『良かったね』と安心してくれます」。
ただ「本作だけは、絶対に子どもたちにも観てほしい」と言う。「完成した映画を観た時、自分が出ているにも関わらず、映像の力って本当にすごいと感激しました。観てくれた皆さんも、口を揃えて『すごく良かった』と言ってくださるし、私も普段は『観てくれたらうれしいです』ぐらいのコメントしかできないのに、今回は『観なきゃダメです』とまで言ってしまっています。なぜなら、絶対に震災のことを忘れてほしくないから。まだ問題が山積みで、他人事ではないですし。ぜひ映画を観ていただき、少しでもその現実を知っていただけたらと思っています」。
取材・文/山崎 伸子