罪の意識、喜び…音楽が感情に寄り添う映画『WAVES/ウェイブス』。『恋する惑星』オマージュも
最近の映画では、ミュージカル作品やミュージシャンの自伝もの、さらに懐かしのポップソングを散りばめた作品など、音楽の存在感がこれまで以上に増している。そんななかで、音楽の使い方を究極まで突き詰めたと言えるの映画が『WAVES/ウェイブス』(公開中)だ。
近年オスカーに絡む作品を連発し、話題を集める映画会社「A24」が世に贈りだす本作。同じA24製作の映画『イット・カムズ・アット・ナイト』(17)などで注目された新鋭トレイ・エドワード・シュルツが監督を務め、傷ついた若者たちが新たな一歩を踏みだすまでの物語を鮮烈に映しだしている。
高校生のタイラー(ケルヴィン・ハリソン・ジュニア)は成績優秀で、レスリング部の選手としても活躍。美しい恋人もおり、裕福な家庭で何不自由ない生活を送っていた。しかしある日、肩の負傷で選手生命が危機にさらされ、さらには恋人の妊娠が判明。狂い始めた人生の歯車に翻弄され、自分を見失っていくタイラーは、ある夜、彼と家族の運命を変える決定的な悲劇に見舞われる…。
本作を彩るどころか、もはや主役とも言える存在感を放っているのが、音楽シーンをリードするアーティストたちによる31の名曲。劇中でタイラーが髪色をマネするなど、作品のクリエイションに大きな影響を与えているフランク・オーシャンを筆頭に、ケンドリック・ラマー、レディオヘッド、アニマル・コレクティブ。さらにカニエ・ウェスト、テーム・インパラなどなどそうそうたる顔ぶれの楽曲がズラリ。まさに、”プレイリスト・ムービー”とも言えるものになっている。
これらの音楽は、作品の作り方にも大きくかかわっている。シュルツ監督は、事前に本編に使用する楽曲のプレイリストを作成し、そこから着想を得て脚本を制作したそう。歌詞が書き込まれた脚本には、使われた曲のリンクも記され、その音楽を聴けばキャラクターがどんなことを体験しているかがわかるようになっていたという。
例えばタイラーの世界が崩壊し、どん底の状態になってしまった場面では、憂うつを歌ったキッド・カディの「Ghost」が使われている。すべての曲が登場人物の個性や感情に寄り添うように使用されており、時にはセリフの代わりにキャラクターたちの心情を伝える役割を担っている。
また、前半と後半で大きく分かれた本作の構造に影響を与えたのが、ウォン・カーウァイ監督の『恋する惑星』(94)。同作へのオマージュを込めて、劇中で印象的な使われ方をされたダイナ・ワシントンの「What a Difference a Day Makes」を、異なる2シーンで使用しており、音楽に様々な意味を持たせている。
音楽を軸に据えた新しい形の映画となっている『WAVES/ウェイブス』。本作における音楽がどのような意味を持っているのか、実際に劇場でたしかめてほしい!
文/トライワークス