99歳の新藤兼人が監督人生最後の舞台挨拶。感動スピーチやおなら話に拍手
99歳の新藤兼人監督の映画人生最後の作品『一枚のハガキ』の初日舞台挨拶が8月6日にテアトル新宿で開催。豊川悦司、大竹しのぶ、柄本明、倍賞美津子、津川雅彦、そして新藤監督が登壇した。日本の現役映画監督としては最高齢となる新藤監督の最後の晴れ舞台ということで、俳優陣も感慨深い表情で、感謝の言葉や面白おかしいエピソードを語った。
まずは、豊川たちが登壇した後、車椅子の新藤監督が観客による拍手を浴びながら花道を通って元気な姿を見せ、力強いスピーチをした。「私は今、99歳です。この映画は、98歳の時に作ったのですが、もう何となく終わりだという感じがしまして。なぜ、戦争みたいにバカバカしいことをやるのか、というのがテーマ。32歳の時、軍隊へとられて、その時に体験したことをテーマに脚色して監督をしました。もう、私の力は少ない、皆さんの力が大きい映画です。よろしくお願いします」。
主演の豊川は「この場にいること自体が光栄なこと。前回、初めて呼んでいただき、今回、2回目も呼んでいただき嬉しいです。二度あることは三度あるということで、また呼んでいただけると」と語り、大竹は、新藤監督のパートナーだった乙羽信子と監督の夢を見た話を交えて、ふたりの映画への情熱の話を披露した。「乙羽さんと監督は、お金を集めながら映画を撮っていて。毎回、これで最後かもしれないって言いながら、ずっと作品を撮ってきた。私はそんなふうに人生を傾けて映画を撮ったことはなかったなと」。
柄本は「新藤監督が興奮して立ち上がられた時、ぷーっておならをしまして。実にめでたいなと。また、100歳の映画を撮っていただきたい」と、茶目っ気あふれる思い出話を語ると、倍賞は『午後の遺言状』(95)の時の監督と乙羽信子のエピソードを語った。「監督と乙羽さんがずっと話をしてらっしゃるのを外で見ていたら、見事にふたりのところに後光が差していて。今でも鮮明に覚えてます」。津川は「最後に先生が僕の手を握って、ただ、泣いてらっしゃる。先生とお目にかかれて、本当に嬉しかったです」と涙ぐみながら語った。
最後に、大竹から新藤監督に、監督の年齢にちなんだ99本のバラの花束が渡された。新藤監督はそこで、最後のスピーチを行った。「色々これまでやってこれたのも、皆さんのおかげだと思ってます。いつも本当につまずいて、つまずく度に額をぶちつけ、これは大変だと。でも、ここで倒れては次が続かない。泣いてはいけない。前を向いて行かなきゃいけないと思いました。しかし、私も終わりが参りました。でも、今まで作った映画や、映画に対する思いがありますから、新藤はこんな映画を作ったんだと、時々思い出してください。それを望みに死にたいと思います」。
新藤監督最後の舞台挨拶の拍手は、なかなか鳴り止まず、俳優陣たちだけではなく、会場が一体となって99歳の名匠の最後の花道を飾った。これまで監督した映画は49本、御年99歳。願わくば、100歳記念で50本目の映画となる新藤兼人の次回作をまた見たいと、みんなが思ったに違いない。そんな感動的な舞台挨拶だった。【取材・文/山崎伸子】