ゾウが雪玉を投げる? 奇跡の映像の数々『旭山動物園物語〜』
「動物は俳優さんと違って、注文しても演じてくれませんからね」――マキノ雅彦監督は、“動物の表情を撮る”ことが『旭山動物園物語 ペンギンが空をとぶ』を作るうえで最も大変だったと語る。
「僕らは旭山動物園のポリシーに賛同してこの映画を作ったのですから、芸能プロダクションにいる動物を使って撮影するわけにはいきません。動物の嘘を撮ったところで、お客さんに訴えることはできない。動物が本当に生き生きと輝いている姿を映さないといけないというのが、一番の使命だったけど、最も自信がないことでした。奇跡を待つしかない。そして奇跡の確率を高めるには、時間をかけてたくさん撮るしか方法はないんです。撮影期間は2008年の2〜4月だったのですが、それだけでは間に合わない。しかも、現在の旭山動物園には象もゴリラもいなければ、撮影当時はキリンもいなかった。でも昔はいましたから、日立のゴリラや釧路の象というように全国の11か所の動物園に協力してもらった。そこに2007年の夏からカメラ班を5班体制で組み、学生まで動員して張りついて撮影したわけです」
それでは、マキノ監督が挙げてくれた奇跡の映像の数々を紹介しよう。
(1)ゾウの交尾――「小菅園長ですら見たことがなかったそうです。ですから、映像が撮れたことは動物園にとっても大変名誉なこと。繁殖は動物園のもう1つの使命ですから」
(2)駈け上がるクロヒョウ――「あれほど躍動感があるのだから、駈け上がるだろうと勝手に想像していたのですが、これも小菅園長は見たことがないと。それで飼育係に天井の網に登ってもらい、上から肉を降ろそうとした瞬間でした。そこにもうクロヒョウの牙と爪があったんです。よく落ちなかったと全員が真っ青になるくらいビックリしました」
(3)チンパンジーのキスシーン――「語るも涙です。チンパンジーのオスがメスに餌を手渡すと台本には書いてありますが、してくれるはずがない。人間の子供だってお饅頭を自分で食べちゃうのに。やっぱり奇跡でしょうね。チューしている映像も1日中カメラを回して、あの1カットだけでしたから」
(4)鼻で雪玉を投げる象――「本当に信じられないですね。小菅園長から旭山では投げたという話を聞いて台本に加えたのですが、秋田の動物園では『あり得ませんよ!』と言われ。でも撮影班から連絡があって『やりました!』と。『エーッ、嘘だろ!』と。映画では音は使ってませんが、(映像素材には)横のビックリした声が入っているんですよ。映画の神様が、象にマジックをかけてくれたと思えるほど嬉しかったです」
マキノ監督は“奇跡”と言うが、それを可能にしたのは、坂東副園長に負けない監督の粘り強い根気があったからだろう。【取材・文/外山真也】