ヴェネチアが認めた才能!『ヒミズ』の染谷将太「できることは全てやった」

インタビュー

ヴェネチアが認めた才能!『ヒミズ』の染谷将太「できることは全てやった」

若手俳優の注目株・染谷将太の2012年の映画の幕開けは、『冷たい熱帯魚』(11)、『恋の罪』(11)の鬼才・園子温監督作『ヒミズ』(1月14日公開)だ。ご存知、第68回ヴェネチア国際映画祭で、二階堂ふみと共に、マルチェロ・マストロヤンニ賞(最優秀新人俳優賞)を受賞した注目作である。本作の撮影では「園監督の愛をひしひしと感じた」という彼に、園組の熱い現場について語ってもらった。

大きな夢も抱かず、ただ普通に生きたいと思っている住田祐一(染谷将太)。そんな住田に惹かれる茶沢景子(二階堂ふみ)は、愛する人と守り守られ生きていきたいと願う。ふたりの人生は、ある事件を境に変わっていく。園監督の現場では、撮影前にかなりのリハーサルを重ねたという。「僕が今までやったきた中では、一番リハをやった現場でした。でも、リハーサルで固めてしまうと面白くないので、方向性を確かめるって感じでした。実際、本番ではリハーサルでやったことを全て超えていきました」。

その「超えた」という手応えは、どんな時に感じるものなのか?「目に見えてわかったのは、自分が怒鳴っているシーンです。リハでは一切怒鳴ってなかったんですが、いざ撮影に入ったらああやってぶち切れることになっていきました。それは園さんの現場力ゆえですね。基本的にカット割りがなく、シーンの頭から最後までぶっ通しで撮るから、感情が途切れないんです」。

リアルな緊迫感があふれるバスジャックのシーンも、実にエキサイティングだったと語る。「バスの中で僕が暴れるシーンも、実際に最初の会話から、僕が押さえつけられるまでを通しで撮りました。カメラも3、4台使っていて、実はカメラマンも映像に映っているんです。でも、ちゃんとしたメインのカメラは後ろにあって、その他は小さい隠しカメラだからわからなくて。やっている自分も、まるで本当にバスジャックが起こったような錯覚に陥りました。すごく楽しかったです」。

住田が絵の具まみれになる狂気のシーンは台本にはなく、現場で生まれたものだ。「自然に、ああしたいと思えたというか。苦痛ではなかったし、無理も一切してなくて。でも、あそこまで持っていけたのは、園さんのおかげですね。ここまでやって良いんだという感覚を知ったことは、貴重な経験でした。出し切った感というか、あの時できることは全てやったつもりです。映画の現場は毎回全然違いますが、自分の中では新しいやり方を見せてくれた監督でした」。

茶沢役の二階堂ふみともガチンコでやりあったようだ。「茶沢って最初、むかつくじゃないですか。本当にむかついて、でも役がむかついてるから良いやって、園さんとふたりで彼女をいじってました(笑)。茶沢とのシーンはほぼ順撮りだったので、自然と仲良くなっていきましたが」。住田が茶沢をビンタするシーンも印象的だ。「思い切りひっぱたきました(笑)。本番前に彼女に向かって、『お前、覚悟しろよ』って言ったら、笑ってました。痛そうでしたが、罪悪感はなかったです。ふみちゃんが本気で来てくれたから、俺も本気になれました。相乗効果がすごかったです」。

『ヒミズ』の後、人気シリーズ最新作『ALWAYS 三丁目の夕日'64』(1月21日公開)、鬼才・石井聰亙改め石井岳龍の10年ぶりの長編監督作 『生きてるものはいないのか』(2月18日公開)などが待機中の染谷。役者としての抱負を尋ねると「これからも変わりなく、素敵な方々と素敵な作品に携わっていけたら、それだけで幸せです」と語る。さらに、出演作『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』(11)のスピンオフの短編『episode.0.38あの子とパーマ』で監督経験もある彼は、「いつか長編映画もちゃんと撮りたいです」と、頼もしく宣言してくれた。今後の映画界を担う彼は、役者としてだけではなく、監督としても活躍が期待できそうで、今から楽しみでならない。【取材・文/山崎伸子】

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