田中麗奈「自然の中の撮影は贅沢な時間」と『種まく旅人』を語る

インタビュー

田中麗奈「自然の中の撮影は贅沢な時間」と『種まく旅人』を語る

田中麗奈は自然がよく似合う。新作『種まく旅人 みのりの茶』(3月17日より全国公開、3月3日より大分・福岡先行公開中)でも、茶畑を背に爽やかに汗を流す“農ガール”を好演している。今回、茶畑との出会いで成長していく女性・みのりを演じた田中麗奈にインタビュー。女優として飛躍を続ける彼女の現在の心境を探った。

映画の舞台は、本作のメガホンを取った塩屋俊監督の故郷・大分県。みんなの畑を気さくに手伝う謎の人物、金ちゃんこと大宮金次郎(陣内孝則)は、実は農水省職員だ。正体を隠しながら、お茶の有機栽培に携わる農家の人々と共に奮闘を続ける姿を感動的に綴る。

本作で田中麗奈は、東京から来た元デザイナーの三十路女子を演じている。最近では『源氏物語 千年の謎』(11)での生霊・六条御息所役の強烈な演技が記憶に新しいが、今回のような等身大の女性の役は久しぶりだ。本人も「最近はアクの強い女性の役が続いていたので、今回のみのり役は新鮮で刺激的でした」と語る。「みのりは無我夢中で仕事をやってきて、それゆえに空回りしていて、格好良いってことに縛られちゃってる。自分を見失っているんです。でも、運命に流されているなかで茶畑に出会い、変わっていく。みのりの心が次第に解きほぐされていく様子を楽しんでほしいですね」。

等身大の役ならでは役作りについては、こう話してくれた。「監督からは『みのりは、みのりらしさを大事にしてほしい』と言われましたが、そこが難しいところ。みのりは元デザイナーという職業から、畑で着る服や、水の中に花を浮かべるとか、彼女の感性が大事にできたら良いなと思って、探りながら演じていきました」。そのこだわりがきらりと光る、元デザイナー・みのりならではの農業ファッションにも注目してほしい。

みのりは、病気の祖父に代わって茶畑を任され、有機栽培に悪戦苦闘する。初めは鎌の使い方もままならないが、茶畑の中で生き生きと成長していくみのりの姿が好感を呼ぶ。撮影は臼杵市の美しい茶畑の中で行われた。田中は「大自然を相手にした撮影は解放される」と話す。「研ぎ澄まされる感覚があるというか、主役は人物というよりも、自然。“日が暮れるから撮っちゃおう”とか、“今、夕日が綺麗だから撮ろう”とか、その時の環境を中心に撮影が進んでいくのは好きです。贅沢な時間だなと思います」。

30歳で失業し、それをきっかけに新たな自分を発見していくみのり。演じた田中も現在、31歳。その心境の変化について語ってくれた。「自分はどういうふうに生きていったら幸せかな?とか、何を表現していきたいのか、そのためにはどんなことが自分には足りないのか、改めて考える時期だなって思っています。これまで一生懸命にやってきたからこそ、また次のステージに進むために考える時間なのかもしれない。映画で演じたみのりも、そういう時期だったと思います。私は役者として、自分自身ができる限りのことはやりたい。焦らず、いろんなことを取り入れて一歩、一歩進んでいきたいですね」。

“オーガニックシネマ”と呼ばれている本作。最後に本作を見る人へメッセージを送ってくれた。「この映画は心のコリを取ってくれるような、お茶を飲んだ時にほっとするような作品です。明日への希望がわいてくると思います。今だからこそ見てほしい映画です」。久しぶりに演じた等身大の女性役で見せるすがすがしい表情の中に、凛とした力を感じさせる田中麗奈。『種まく旅人 みのりのお茶』は、これまでの田中麗奈が積み上げてきた実力と、これからの彼女のさらなる可能性を感じさせてくれる、そんな一本であることは間違いない。【取材・文/鈴木菜保美】

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