名女優ジョディ・フォスターが語る『それでも、愛してる』でのメル・ギブソン起用と映画製作の本音
鬱病を患った夫と、彼を取り巻く家族の葛藤を優しく描き出した心温まる人間ドラマ『それでも、愛してる』(公開中)。本作の監督を務めているのが、『告発の行方』(88)や『羊たちの沈黙』(91)で2度のアカデミー主演女優賞に輝いた名女優ジョディ・フォスターだ。16年ぶりにメガホンを取るだけでなく、脚本にほれ込み、主演も同時に務めた彼女が、映画について語ってくれた。
本作を語るうえで避けては通れないのが、主演として鬱病の夫役を演じたメル・ギブソンのことだ。今回はビーバーのぬいぐるみがなくてはしゃべることができないという、風変わりな役を渋みと迫力の演技で見事に演じているのだが、映画よりも私生活で世間を騒がせているイメージが先行してしまっているのが正直なところだろう。実際、人種差別発言やドメスティックバイオレンス問題などトラブル続きで、彼の起こした問題によって本国では映画の上映が延期されるなど、本作も決して小さくはない影響を被ってしまったのだ。
しかし、そんなトラブルメーカーの彼に対しても、ジョディは一貫して優しく包み込むような態度を見せている。「メルとは十数年前に一緒に仕事をして以来の親友で、これまで一緒に仕事をした役者の中で一番好きな人です。気さくで、色々なアイデアを出してくれる、とても楽しい人。彼がこの役を他のどんな俳優にもできないほど、とてもよく理解してくれたおかげで、片時もビーバーを手放せない男という突拍子もないコンセプトがちゃんと伝わるようになったんです」と、久々の監督作を別の話題で騒がせてしまったメルのことを大絶賛する。親友の信頼に応える名演をみせたメルもさることながら、彼を支え続けるジョディの優しさと度量の広さには感服するしかない。
そして、女優業はもちろん、『リトルマン・テイト』(91)で初監督を務めて以来、映画プロデューサーなど制作側でも活躍を続けるジョディ。今回は16年ぶりと、ブランクが空いてしまったが、今後の監督業についてはどのように考えているのだろう? 「本当は一年おきに映画の監督をできたら良いのですが、なかなかうまくはいきませんね。私は個人的な映画を作るのですが、そういう映画は順調に進まないからです。それに私は、物語に感動するか、感動しないかということにも、とてもうるさいんですよね。私が作りたいのは、『この映画は“私”だ』といえるような映画です。映画が私自身であり、私の信じること、というような。とても個人的な内容になっていまうので、作るのも難しいですし、幅広い観客を獲得することもできないと思いますが、私はそれでも良いんです。そういう映画が大好きですから」と、映画に対して妥協しない、真摯な姿勢も見せている。
女優として成熟した魅力を重ねながら、活動の幅を広げ続けるジョディ。鬱病という難しい題材を丁寧に描き出した『それでも、愛してる』での、彼女の演技と監督としての手腕、そして何よりも優しさを感じとってもらいたい。もちろん、完全なカムバックが待たれるメル・ギブソンの新境地にも期待したいところだ。【トライワークス】